太阳太刺眼了。
听说有个男人就因为这种理由杀了人。我完全能理解他的心情,痛彻心扉地理解。
隔着窗户眺望月亮,把皮带绕成环挂在门把手上。
因为月亮太美了。
所以,我想死了。
◇
〈9月13日〉
像往常一样遭受着无理的暴力,摇摇晃晃地回到家。打开玄关的门,迎接我的是寂静的空气。我知道家里没人,便默默脱鞋进屋。
这是一栋有四十年历史的破旧公寓。我和妈妈住在其中一间房里。即使住在同一个屋檐下,我们也几乎见不到面。因为妈妈不分昼夜地出去工作。现在她又去工厂上夜班了。
从我记事起,父亲就不在了。即使对他的缺席感到疑惑,我也从未感到过悲伤或孤独。对我来说,没有父亲才是常态。
但是,一般情况并非如此。尽管家庭和亲子关系的多样性已被认知和接受,但单亲家庭仍然常常被戴着有色眼镜看待。尤其是母子家庭,这种倾向更为强烈。
家庭环境被嘲笑,被当作傻瓜。起初是玩笑话,渐渐变成了恶言恶语,接着开始动手,最终发展成了欺凌。
说实话,都上中学了还搞这种无聊把戏,我真是觉得可悲。反正也只是消磨时间罢了,只要我保持无反应,他们很快就会厌倦的。
我的算盘完全打错了。我的无动于衷似乎激怒了他们,恶言和暴力逐渐升级。
回到自己的房间,拉亮电灯的绳子。是摔倒在地时扭到了吗?手腕一阵刺痛。
“有贴布吗?”我看向窗边的彩色收纳盒。这时,一抹朦胧的光映入眼帘。我将视线转向窗外。
在深蓝色的夜幕中,一轮橙色的月亮正散发着光芒。那是一轮未满的、略有残缺的月亮。
我的目光被牢牢吸引住了。好美。我有多久没有感受到什么东西是“美”的了?
内心渐渐平静下来。我终于抓住了梦寐以求的安宁。
据说月亮会影响万物。当然,也包括人类。
我一定是被迷住了。被月亮,以及它的魔力。
我忽然想,如果就这样死去该有多好。如果能在安详中死去,该有多轻松。
思考和行动几乎是同时发生的。
我从校服裤子里抽出皮带,绕成环挂在门把手上。我知道即使没有高处也能上吊。因为有位著名艺人就是用这种方法自杀的。
背对着门蹲下身。隔着窗户望向月亮,把脖子伸进了皮带环里。
伸直腿,放低身体,皮带立刻勒紧了脖子。颈动脉受到压迫,意识瞬间开始模糊。
“要死了——”这个念头刚闪过,头顶就传来了“咯吱咯吱”的声音。
伴随着断裂声,身体坠落下来。我顺着势头摔倒在地板上。
“——咳、咳咳!”
剧烈的咳嗽和窒息感袭来,泪水涌了出来。我不知道发生了什么。
呼吸恢复正常后,我环顾四周。门把手掉在附近的地板上。老旧的门承受不住我的体重。
我倒在地上,仰望着窗户。
那轮残缺的月亮,正俯视着死里逃生的我。
〈9月27日〉
距离上吊失败已经过去两周了。
脖子上的淤青消失了,身体也没有不适。坏掉的门把手用家里的工具勉强修好了。妈妈应该没有发现。
我在学习桌前坐下,从抽屉深处拿出藏好的威士忌和几个盒子。又从上学用的背包里拿出今天新买的盒子,一起放在桌上。
总共12个盒子,里面装的都是同一种安眠药。这是很容易买到的商品,按照说明书服用当然没有问题。但是,据说大量服用会导致中毒症状,直至死亡。
在网上看到这个传闻时,我就认定是它了。
如果在一个地方买太多会引起怀疑,所以这两周里,我在多家药店少量多次地购买。今天,终于凑齐了致死量的药物。
我看向变暗的窗户。月亮不见踪影。
我一边感到遗憾,一边打开盒子,把药片从铝箔板里挤出来。12盒,共72片药片在桌上堆成了一座小山。
空腹服用的话,药效应该会更快起效。我这么想着,从早上开始就什么也没吃。本来,妈妈给的生活费也被我拿去买药了,所以最近一直饿着肚子。要说是一举两得,倒也说得通。
网上说酒精能增强药效,所以我用了妈妈的名字网购了威士忌。借助药物和酒精的力量,一定能死成。
我把大约5片药扔进嘴里,用威士忌送服。喉咙和食道一阵灼热,胃里也热了起来。刚吐出一口气,就剧烈地呛咳起来。嘴里火辣辣的,满是酒精味。
第一次喝的威士忌,说实话很难喝。但现在不是在乎味道的时候。
我又灌下去5片。一点一点喝是为了防止噎住。据说服药自杀时,因药物作用死亡的比例其实低于窒息死亡。被药片噎死听起来太痛苦了,我实在不想那样。我继续每5片地服药。
还剩52片。致死量大概在70片左右,如果全部吃下去,应该就能死了。我想象着自己像睡着一样离去的样子,把威士忌瓶口凑到嘴边。
瓶子从手中滑落。琥珀色的液体在桌上蔓延开来。
——咦,怎么回事?手使不上劲。脑袋和视野天旋地转,身体摇摇晃晃。连坐着都坐不稳。全身发热,只有后背莫名发冷。从胃到食道的恶心感异常强烈。
“呜——呃啊!”
等我意识到恶心想吐时,已经吐了出来。呕吐物溅在地板上。酒精的臭味和酸腐的气味直冲鼻腔,接着又吐了起来。
呕吐迟迟不停。令人不快的声音和气味充满了房间。因痛苦而流下的眼泪滴落在地板上,和呕吐物混在一起。
我吐得仿佛胃里一滴不剩,终于止住恶心时,已经气喘吁吁了。我知道脸上沾满了眼泪、鼻涕和呕吐物。
黄色的“海洋”里,漂浮着白色的颗粒。那些完好无损的药片,在发挥作用之前就全部被吐了出来。
可能是胃里空了,恶心感消退了不少。头还是晕乎乎的,但这大概是酒精的错。
空腹状态下,第一次喝威士忌,还吃了大量药片。会恶心也是理所当然的。
结果,只是痛苦了一场,却没能死成。
我慢吞吞地抬起头,望向黑暗的窗户。月亮果然还是不见踪影。
〈10月3日〉
洗涤剂、农药、杀鼠剂……能致死的东西还有,但上次服药自杀的尝试让我心有余悸。清理呕吐物太麻烦了,气味也残留了好久。
要是能得个急性酒精中毒死掉就好了,结果只是宿醉而已。我可能运气太好了。既然如此,就只能选择那些靠运气无法避免的方法了。
我一边环顾四周,一边走在夜晚的街道上。我在寻找十层以上的建筑。
要跳楼死得彻底,至少需要二十米的高度。所以,为了保险起见,我在找三十米以上的建筑。
市中心有很多商业设施和公寓等高层建筑。但是,管理都很严格,几乎没有能上到屋顶的建筑。就算能上去,高耸的围栏也会碍事。
高楼的外楼梯也都被栅栏围着。而且,很多建筑根本没有外楼梯。
有外楼梯且没有被栅栏围住的,都是不到十层的建筑。二十米以下也不是死不了,但存在生还的可能性。
被摔在地上,骨头粉碎,内脏也可能破裂。被足以致死的疼痛折磨,却死不掉,落下残疾,给妈妈添麻烦地活着。然后继续被欺负。等待我的只会是比现在更悲惨的未来。
必须死得彻底。虽然下了这样的决心,但找了一个小时左右后,我还是放弃了跳楼自杀。一是找不到合适的建筑,二是怕闲逛太久会被警察盘问。
话虽如此,我也不想马上回家,便坐在公园的长椅上,茫然地望着天空。漆黑的夜空中挂着一弯半月。
“晚上好。”
突然,旁边有人搭话。我惊讶地转过头,不知何时,一个男人坐在了我身边。
“这么晚了,您一个人在这里做什么?”
男人问道。他没穿制服,看起来不像是巡逻的警察。说不定是少年辅导委员。
三十岁出头吧。狭长的眼睛令人印象深刻,是一张过分端正的脸。穿着剪裁合体的夹克和西裤,没打领带的衬衫领口敞开着。两只耳朵上戴着很多耳钉。
不可能有这么闪亮的少年辅导委员。我不知道他是谁,但感觉扯上关系准没好事。
我从长椅上站起来,快步走向出口。这时,身后传来一句话。
“在放弃之前,请联系我。”
他说的话,我完全没听懂。
·
回到家换衣服时,一张名片从口袋里掉了出来。
〈加贺美法律事务所 律师 加贺美隼人〉
正面印着这些字,背面手写着手机号码。
放名片的,大概就是在公园遇到的那个男人。原来他是律师吗?他说“在放弃之前联系我”,也许是看穿了我的处境。
律师是正义的伙伴。他会起诉那些欺负我的家伙,让他们受到惩罚。那样的话,我就能平静地生活了。然而,这刚燃起的希望,我很快就放弃了。
我们家没钱请律师。而且,我不想让妈妈知道我被欺负的事。
最重要的是,我无法相信那个人是律师。事务所名和姓氏相同,说明他是经营者,至少是经营者家族的一员。一个耳钉打得闪闪发亮的帅哥,既是律师又是事务所的经营相关者?这比少年辅导委员还不可能。我一定是被耍了。
我把名片撕掉扔了吧。这么想着,但在撕碎前一刻,手停住了。因为那个男人的声音在耳边回响。
“在放弃之前,请联系我。”他说这话时,语气无比认真。或许,他真的是律师也说不定。
但即便如此,也改变不了什么。我把名片收进书桌抽屉,拿出了美工刀。
推出几厘米长的刀刃,抵在手腕上。“噗嗤”一声,皮肤被划破的声音响起。比起疼痛,冲击感更强烈。
割腕是仅次于上吊的常见自杀方式。但是,实际因此死亡的人并不多。因为在到达动脉之前,很多人会因为疼痛或流血而放弃。
除非下定决心要把手腕整个切断,否则是死不了的。搞不好,就算手断了也死不成。
尽管如此,我还是会割下去,是因为能发泄这无可奈何的情绪的对象,只有我自己。
〈10月15日〉
久违地和妈妈一起吃了饭。周六休息真是难得。不过她晚上还要去工厂上夜班,所以吃完饭马上就要出门。
妈妈看起来很疲惫,很憔悴。但能和我一起吃饭,她似乎很高兴,从刚才开始就一直笑眯眯的。
看着妈妈开心的笑容,我感到很难受。因为,我一直想着要死。
她问了很多关于学校和家里的事。我所有的回答都是谎言。真话是打死也不能说的。
吃完饭时,一直笑容满面的妈妈突然变得神情严肃。
「ねえ、刀也。貴方、なにか隠してる事があるんじゃない?」
突然の問いかけに心臓が跳ねる。僕と同じ黄緑色の目が、全てを見透かすようにじっと見つめてきた。
目を逸らしたら駄目だ。視線を合わせたまま、自然に笑え。じゃないと気付かれる。
「なに、いきなり。隠してる事なんてないよ」
「貴方、最近痩せたし」
「秋になっても暑いから、ちょっと食欲がなかったんだって。でも、もう大丈夫だよ。ご飯ちゃんと食べたでしょ。それより、お母さんこそ痩せたんじゃない?」
「今は貴方の話よ。夜中に出歩いてるのを見たって、お隣さんが言ってたわ」
「それ、いつの話? 先々週だったら、コンビニにシャーペンの芯買いに行ったけど」
「制服や靴が酷く汚れてる時もあった」
「大雨の日あったでしょ。その時に転んで汚れちゃったんだ」
お母さんが探るような目で僕を見る。心臓が口から出そうだったけれど、緊張と動揺は出さずに笑ってみせた。
「⋯⋯本当に、なにもないのね」
「うん。なにかあったら言ってるよ。いつもそうしてるでしょ?」
「⋯⋯そうね」
ふう、と溜息を吐き、お母さんは表情を和らげる。
僕も心の中で安堵の息を吐いた。どうにか乗り切ったようだ。
「じゃあ、お母さん支度して出るから。悪いけど後片づけお願いね」
「わかった。いってらっしゃい」
お母さんが家を出た後、酷い自己嫌悪に襲われた。
たった一人の家族に嘘をつかないといけない自分が情けなくて、今すぐ消えてしまいたい衝動に駆られる。
ふらりと立ち上がり、覚束ない足で台所に入る。流しの下から肉切り包丁を取り出し、刃をお腹に向けて握った。
一気に突き刺すーーはずだったのに。
手首を切るのとはわけが違う。凄く痛いだろうし、きっと苦しむ。それに、もし失敗してしまったら、やり直さなくてはいけない。血まみれになりながら、激痛の中で、何度も何度も自分のお腹を刺さなくてはいけないのだ。
嫌だ、怖い。
死への渇望よりも、恐怖が勝ってしまった。刃先が寸前で止まる。つくづく自分が情けなくなった。
包丁を持ったまま、床に蹲る。気が付くと、夜が明けていた。
〈10月21日〉
御守りが燃えている。小さな頃にお母さんがくれた、大切な御守りが。目の前で、火に包まれている。
周りでは、数人の男子が声を上げて笑っている。背後から僕を羽交い締めにしている奴も、同じように笑っていた。
悲しみと絶望と、怒りの感情が湧き上がる。
無我夢中で体を動かすと、背後の奴が尻もちをついた。全員が呆気に取られた隙に、手で火を消す。熱さなんてどうでもよかった。
多少焦げてしまったけれど、御守りは無事だった。強く手に握り込み、その場から駆け出す。男子達はすぐに僕を追ってきた。呆気なく捕まり、地面に引き倒される。
暴言と共に、無数の足が振り下ろされる。予期せぬ反撃を食らったからか、いつもより執拗だった。また御守りを奪おうとしてくる奴もいたので、必死に手を握って死守する。
なにをしても無駄だと分かったのだろう、しばらくすると、男子達は白けた様子で去って行った。
ホッと息を吐く。痛みと安堵の中に、ざまあみろという気持ちが混ざっていた。
いつも嬲られる一方だった僕が、反撃をしたのだ。白けた様子だったし、きっと奴らももう僕に構う事はないだろう。だから大丈夫だ。
反撃の高揚感からか、僕は強気にそう思ってしまった。次の日から、いじめが更にエスカレートするとも知らずに。
〈11月8日〉
日に日に増える傷のせいで、もうどこが痛いのかさえ分からない。どうにか日常生活は送れているけれど、いつ倒れてもおかしくなかった。
心は疲弊しきっていて、死にたい気持ちすら湧いてこない。果たしてそれはいい事なのか悪い事なのか。
ーー分からない。もう、なにも、分からなくなってしまった。
夜の公園を横断しながら、限界なのかもしれないとぼんやり思う。限界がくれば勝手に倒れて勝手に死ぬに違いない。もうそれでいいんじゃないか。
突然、顔面に衝撃を感じる。足を引きずっていたからか、躓いて転んだようだ。
鼻の奥がじわじわと熱くなって、血が流れ出す。顔に傷が付くとお母さんに気付かれるから、あまり酷くないといいけど。地面に広がっていく赤い液体を見ながら、そんな事を考える。
住宅街にある公園は、夜になるとひと気がなくなる。僕のように通り道にしている人は居るけれど、この時間は誰も通らないようだ。皆もう家に帰り着いているのかもしれない。
人が居ないのを幸いに、しばらく地面に突っ伏していた。11月の空気は冷たく、体はすぐに冷え切ってしまう。代わりに痛みが和らいだ。
息苦しくなったので、体を転がし仰向けになる。ひらけた空の真ん中に、ぽっかりと月が出ていた。満月だ。
何気なく手を伸ばす。指の隙間から、月光が落ちてくる。逃すまいと拳を握っても、冷たい空気がすり抜けただけだった。
当然だ。月光なんて掴めないし、手を伸ばしたって月には届かない。僕がなにかを得る事はないのだ。
手を下ろそうとした時、足音が聞こえた。音はだんだん近付いてくる。タイミングを逃した手は伸張しっぱなしだ。
その手を強く握られる。温かくて大きな手だった。凍てついた指に、誰かの体温がじんわりと染みてくる。
「こんな所に寝転がっていたら、風邪を引いてしまいますよ」
顔を覗き込まれたけれど、相手の姿は暗くてよく見えなかった。声はどこかで聞いた覚えがある。
誰だっけと考え、すぐに思考をやめた。誰でもいいし、どうでもいい。殴るなり蹴るなり好きにすればいい。
「貴方とは以前お会いしましたね。また会えてよかった」
そう言われ目を凝らせば、うっすら姿が見えてくる。
驚くほど整った顔に、たくさんのピアス。忘れもしない、この人は。
「⋯⋯加賀美隼人、さん」
「名刺、見て下さったんですね。それなら話は早いです。わたくしが貴方を、現状から救い出します」
それが、加賀美さんからもらった最初の希望。
降り注ぐ月光が、まるで後光のようだった。
・
ベンチで温かいココアを飲みながら、今まで身に起こった全てを一気に喋る。僕はこんなに饒舌だっただろうかと、自分で自分に驚いた。もしかしたら、ずっと誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。
立て板に水の勢いで喋る僕に引きもせず、加賀美さんは真剣に話を聞いてくれた。相槌を打って、時に優しい言葉をかけてくれた。
それだけでも十分だったのに、
「必ず助けますので、安心して下さい」
加賀美さんはそう言って、力強く頷いてくれた。
「有難いんですけど、僕お金ないです。それに、お母さんに知られちゃうから」
「貴方はお金の心配なんてしなくていいんですよ、わたくしが個人的に動くだけですので。親御さんに関しては、話を聞く限り恐らく気付いているでしょうね」
「え、」
予想外の言葉に、呆然としてしまう。
この前話した時、お母さんはなにも言わなかった。けれど、思い返せば笑顔が少し曇っていたような気がする。
「母親の鋭さを甘く見ない方がいいですよ。なんにせよ、裁判を起こすとなれば、保護者に法定代理人になってもらう必要があります。遅かれ早かれ話さないといけません。自分で話すのがつらいなら、わたくしから伝える事も出来ますけど」
少し考えて首を振る。
悲しませる結果になっても、僕からお母さんにきちんと話さないといけない。そうしないと、本当の意味で乗り越えられないのだと思う。
「まずは証拠を集めないといけません。申し訳ありませんが、貴方にはまだつらい思いをさせてしまいます。けれど、わたくしを信じて、なにがあっても折れずにいて頂けますか」
加賀美さんが、真剣な表情で僕を見る。
話を聞いてくれた。手を差し伸べてくれた。助けると言ってくれた。心を、希望を、取り戻させてくれた。
僕は、加賀美さんを信じる。
「はい、もちろんです。よろしくお願いします」
ハッキリとした返答に、加賀美さんは柔らかな笑みを浮かべた。
頭上では、満月が冴え冴えとした光を放っている。
月を眺めても、もう死にたいとは思わなかった。
◇ ◇ ◇
「こんにちは、加賀美さん」
所長室に剣持さんが入ってくる。濃紺のブレザーに身を包んだ少年は、勝手知ったる様子で応接用ソファーに腰を下ろした。
課題だろうか、スクールバッグから教科書とノートを取り出し、熱心に取り組み始める。
デスクからその姿を眺め、苦笑混じりの笑みをもらす。元気になったのはいいが、流石に図太くなりすぎではないだろうか。
ーー四年前。剣持さんが中学一年生だった時、彼はクラスメイトからいじめを受けていた。
11月のあの日、公園で話を聞いた後、改めて事の詳細を聴取した。つらいだろうに2時間かけて話してくれたお陰で全容が知れ、証拠と供述の収集が容易となった。
剣持さんの件は警察に被害届を提出し、傷害事件として処理してもらった。
いじめを行なっていた者は多数に上る。クラス全員が加担していたと言っても過言ではない。無視だけをしていた者、暴行は加えなかった者など、逮捕に至らなかった加害者は大勢いる。しかし、中心人物数名は凶暴性と執拗さが認められ、少年院送致や保護観察処分が下された。
審判と中心人物不在の影響で、いじめはピタリと止んだ。代わりに関わってくる者も居なくなったようだが、剣持さん曰く「気楽でむしろよかったよ」との事だ。
この一件で剣持さんはわたくしに懐き、しょっちゅう事務所に遊びに来るようになった。所属する弁護士や事務員も慣れたもので、彼が来ると無条件に所長室へ通している。法律事務所として如何かと思わないでもないが、剣持さんが楽しそうなのでよしとしている。
そんな楽し気な様子の彼は、たまに腕や腹を見て眉を顰めている。服に隠れて見えない部分に、今でも傷跡が残っているのだ。とはいえ、不快感こそあれ、PTSDを発症してはいないらしい。
カウンセリングに通った甲斐もあり、傷跡を除けば、剣持さんは心身共に健康になった。繰り返していた自殺未遂も、今はおさまっている。元来明るい性格だったのだろう、よく笑うようになり、毎日を活力いっぱいに過ごしている。
剣持さんの姿を眺めながら、本当によかったとしみじみ思う。
「あ、そうだ。加賀美さんに聞きたい事があったんだった」
教科書から顔を上げた剣持さんがわたくしを見やる。小首を傾げる顔には、愉快気な笑みが浮かんでいた。
その表情とお決まりの台詞から、なにを聞かれるかは分かっていた。
「なんで僕を無償で助けたの?」
事務所に来るようになり、何度も投げかけられた質問だ。わたくしはいつものように、同じ返答を投げ返す。
「慈善活動ですよ」
剣持さんはわざとらしく唇を尖らせる。一連のやり取りを楽しんでいるのだ。彼にとっては理由などどうでもよくて、ただわたくしで遊びたいだけに違いない。もしくは、そう見せかけているのか。
真意は定かでないが、本当の理由を話すつもりはない。
公園で初めて会った時、わたくしは剣持さんが気になって仕方なかった。二度目に会った時、彼を護りたいと心底から思った。そして、いつからか、庇護欲以外の欲を抱いている自分に気付いてしまったのだ。
これは、決して表に出してはいけない、不埒な欲だ。
「ふぅん、加賀美さんってホントいい人だねー。あ、僕喉乾いたからお茶淹れてこよっと。加賀美さんも飲むでしょ?」
「ええ、お願いします」
「事務員さんに珍しい紅茶もらったんだよね。加賀美さんのには、砂糖の代わりに塩入れちゃお」
「やめなさい」
「冗談に決まってるじゃん」
剣持さんは、んふふと無邪気に笑う。
腹の奥にある欲を、ぐっと押さえつける。わたくしは、この笑顔を護る事だけ考えればいい。
深渊之底的光
奈落の底へと差し込む光
这是一个关于反复遭受欺凌并多次自杀未遂的主角与律师KGM的故事。内容纯属虚构。
文中包含自杀未遂、自残、欺凌、呕吐等描写,虚构的主角母亲也会登场。请自行承担阅读风险。
虽然并不猎奇,但鉴于内容特殊,已添加R-18G标签。CP标签将在1-2天内移除。
本故事与现实世界毫无关联。
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