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寂寞与幻影【8/30 L月小专场新刊】

寂寞と幻影【8/30 L月プチオンリー新刊】
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将于2026年8月30日(周日)举办的L月小专场『交错的月之正义』上发行。 讲述L死后,月与L的幻影一同解决遗留案件的故事。 600日元/56页 https://manacleslife.booth.pm/items/8788969
我察觉到那个传闻,是在九月的一天。历法上虽已入秋,天气却热得仿佛整个东京的人都要被太阳杀死,残暑肆虐。

不过,只要待在这栋专门为搜查本部建造的大楼里,这份暑热就仅仅是窗外的事。外面烈日当空,灼烤着柏油路,甚至能看到热浪摇曳,室内却凉快到穿着长袖也不会难受的程度。

我放下手中的资料,把椅子转向旁边的龙崎。
“我说,龙崎。能稍微过来看看这个吗?”
听到我的呼唤,龙崎一脸明显提不起劲的表情,慢慢地把目光转向我。
虽然这是常有的事,但龙崎从刚才起就没做出在搜查的样子,而是一个劲儿地把方糖当积木搭着玩。为了不弄塌这座已经堆得很高的塔,他正用神经质的尖细指尖,小心翼翼地搭上一块新的。
如果是在剛和龙崎用手铐拴在一起行动时,我大概会因为他这种愚蠢的态度相当恼火吧。实际上,我也确实几次追问过他到底有没有心思解决基拉案。
然而如今,不情愿地说,这也成了日常的一部分。我也明白,龙崎看起来似乎什么都没做,并不代表他真的什么也没在想。所以,对于他在手边搭起来的、有些歪斜的方糖塔,我已经什么感觉都没有了。
“月,你怎么了?”
龙崎用听起来极为无聊的声音回应。我拼命忍住叹气的冲动,把电脑屏幕转向他。
“这是总结基拉传言的网站。”
“哦,这还真是个浪费服务器资源的愚蠢网站啊。”
我苦笑着回应龙崎带刺的说法,再次将目光移回显示器。的确,如他所说,网上和周刊杂志上写的“关于基拉的传言”之类的东西,大多都很愚蠢。
什么基拉和L是同一人,自演自导;基拉其实是背后操纵世界的秘密结社,在替人类做选择;还有说自己才是真正的基拉,解説杀人手法的。随着页面下拉,毫无根据的臆测和妄想像的标题一个个出现。要不是卷入了基拉事件,这些倒也不失为有趣的消遣,可即便如此,也没有任何值得相信的内容。
但是,在几乎没有基拉线索的情况下,正当我不断打开又关闭多个页面,试图寻找哪怕一丝头绪时,却有了发现。
我将目标页面显示在屏幕上,为了让坐在旁边的龙崎也能看到,我微微将显示器转向他。
“确实像龙崎说的那样,大部分内容都不值一提。但是,其中有一条写着‘基拉最近也在制裁无罪之人’。”
“基拉改变了制裁对象吗?”
听到背后突然传来的声音,我转头一看,只见松田拿着一个马克杯,正探出身子想要看我们这边的屏幕。杯口还冒着细细的热气,看样子是刚泡了咖啡回来。
我一边向松田さん调整显示器角度,一边准备解释,而龙崎却露出一副更加不耐烦的表情。他像是失去了兴趣似的,从刚才像搭积木一样堆起来的方糖上拈起一颗,没有放进咖啡,而是直接送进嘴里。
“就算你说他在制裁无罪之人,可基拉之前就已经杀过FBI了吧。现在基拉就算杀了无辜的人,也没什么不自然的吧?”
“FBI是基拉的妨碍者。谁妨碍自己执行正义就绝不放过的方向性,从他想杀我时就很明确了。不过,月君说的“无罪之人”,意思是不是没有妨碍过基拉的人?”
原本以为他不打算参与对话的龙崎,停下伸向糖塔的手,像打断松田的疑问一般尖锐开口。
面对一脸不悦的龙崎,松田像是被他那“连这点事都不明白吗”的嫌弃态度惊到,微微耸了耸肩,露出尴尬的苦笑,挠了挠头。
“也就是说,真正的普通平民也成了基拉的靶子?但这会不会只是看到原本就有疾病、因心力衰竭而死的人,就误以为是基拉所为呢……”
不知是不是最后也没了自信,松田含糊其辞,来回看着我和龙崎的脸。
“我一开始也这么想。不过,提供这个传闻的信息来源,是医疗相关人员聚集的论坛,而且证言又集中在东京都内,所以我寻思着说不定是真的,就调查了一下。”
我一边这样回答,一边为了调出已经查好的记录,手指在键盘上飞快地敲击。
托L的特权,现在的搜查总部可以确认世界各地的警方机构、医院的病历和政府的记录。这个传闻究竟是真是假,还是利用匿名的恶作剧,调查起来非常简单。画面显示了按搜索条件整理好的死亡记录,列着死者姓名、死亡时间、送达医院等。
“首先,我把范围缩小到东京都内,调出了基拉案发生以来,因心脏麻痹死亡的非罪犯的所有记录。然后排除那些有心脏病等可能导致心脏麻痹的基础病的人之后,发现了大约二十名符合条件的人。”
我一边向下滚动画面,一边将这二十人的记录展示给两人看。竜崎似乎正在嘴里含着新丢进去的方糖,微微动着腮帮子,看着排列的数字。
“在统计上,这似乎还说不上是显著差异吧?”
“啊,但是,这二十个人中,有六个人被送到了同一家医院。”
我移动光标,在屏幕上指出了同一家医院名称排列的地方。
看到我的话语,一直在嘴里含着方糖的竜崎停下了动作。微微动弹的脸颊静止了,低垂的目光稍微移动了一下。他或许在想着什么,而松田则看着这边。
竜崎は顔を上げ、伏せていた瞳で、チラリと僕の顔を窺うように見た。
「……継続して調べる価値はありそうです。調査方針に『新しいキラの標的』を追加してください」
そう言って、竜崎は自らを甘く包む空気を体に纏わせながら、こちらを見据えてくる。動きを止めていた指が、新たな角砂糖を一つ摘まみ上げた。
やはりというべきか、真偽の程は定かでないが、キラは既に罪を犯した者だけでなく、罪の無い者も殺し始めている。そんな噂がネット上で流れていた。
俺もこいつと同様に考えた。こいつの言うとおり、こんな噂は大して気に留めるものでもない。しかし、もしもそれが事実であるならば、俺たちがまだ知らない何かがあるのかもしれない。それに、最近のキラは新しい事件を起こすというよりは、裁きの対象が犯罪者だけだった頃の名残で、既に死んでいる犯罪者にまで手を伸ばしている可能性も考えられた。
どちらにせよ、だ。これを軽く見ることはできない。
「あるいは、だけど。もし、この噂が本当なら」
「本当なら、ですか?」
「松田さん、僕、この噂、本物だと思います。時期に心臓麻痺で死んだ犯罪者の記録と、キラが騒がれた期間の記録が重なっているんです。何よりも、その人物が死んだと同時期にキラの犯行声明みたいなのがネットに書き込まれている」
そう言って僕が示した画面には、犯罪者としてニュースに取り上げられた人物が死亡した時間と、キラを名乗る犯行声明が書き込まれた日時が並べられてあった。誰が見ても明らかな一致に、松田さんは信じられないものを見たとばかりに目を見開いた。
「これは……確かに偶然とは思えないな。しかも、この声明の書き方も妙に丁寧だし、死因が心臓麻痺ならキラの可能性が高いと断言している。まるで最初から警察に気づいて欲しいとでも言うようだ」
松田さんの言うとおり、この犯行声明の書き方は異常なほど丁寧で、事件の発生から心臓麻痺に至るまでが克明に描かれていた。
「どうしますか、竜崎? このまま見逃すってわけにもいかないでしょう。何より、もしこの噂が本当なら、僕らはまだ知らないキラの新しい動きってことになる」
「ですね。本物かどうかは別として、一応確認する価値はありそうです。とりあえず、この場に居合わせた捜査官は僕と月くんと松田さんの三人だけで、これ以上は大人数での移動になるのなら話は別ですが、もし良ければ現場へ行ってみますか?」
「行くのか?」
竜崎の思わぬ言葉に、思わず聞き返してしまった。噂の真偽を確かめるとはいえ、キラ対策室のルームから出るとは滅多にないことだからだ。松田さんも驚いたのか、少し目を見開いていた。
竜崎は少しだけ顔を上げると、変わらず無表情のまま、微かに首を傾けた。
「まだ場所は特定できていないんですから、当然でしょう。こういう時は何よりも行動ですよ」
「あの、今なんて言いました?」
後ろで呆けていた松田さんが聞き返した。余程意外だったのか、その声は少し裏返っている。
無理もない。エース、というか尋常じゃない面倒臭がり屋の竜崎が、進んで足を運ぶと言い出したのだから。そして、他人に足を運ばせるよりも、自分が動く方がまだマシだと判断した時、この天才がどんな動きをするのか、僕も正直興味があった。
「さ、行きましょう」
そう言って、僕の手錠に繋がれた右手を引っ張りながら、スタスタと歩き出す。慌てたように松田さんが「あ、あの、一応確認ですけど、どちらに行かれるおつもりですか?」と訊ねた。
「決まってるだろう。噂の真偽を確かめるんだ」
竜崎は足を止め、松田さんへ顔だけを向けると、無表情のまま静かに言った。松田さんも、竜崎のその言葉に、ハッとしたように息を呑み込んだ。

『キラは罪の無い者を殺す』。もしかすると、それはキラが新たな動きを見せた、つまり、何かがキラを動かしたことを示す最初の手がかりになるかもしれない。
竜崎は立ち上がる際、それまで高い塔を作り上げていた角砂糖を手のひらで押し潰した。

角砂糖の塔が呆気なく崩れ去る。
その様を表しているように、机の上に置かれたままのスマホに、通知を伝える光が一度だけ光った。

僕が竜崎のいるホテルの一室へ足を踏み入れると、背の高いソファーの背もたれから、だらしなく長い腕と脚を投げ出した竜崎が、僕を出迎えた。
「おそいですね。月くん、あまり時間をかけるとそれだけ相手に焦りが生まれてしまうところです。何故そんなに時間がかかったんですか?
「すまない、マスコミ共が騒いでいてな。色々と面倒を踏まされてしまった」
ホテルの一室に響く、チェンバロを思わせる甲高い声。現れた男──僕は男の顔を見た瞬間、思わず笑いを堪えていた。
「何だ、その顔。わざわざ死神の姿をしているのに?」
僕の言葉に、男はシミの付いたシャツの襟元を、少々恥ずかしそうに引き結んだ。仮面ライダー然とした出で立ちのくせに、何故だか変なところで真面目というか不器用というか。今ここで、あまり軽々しく人と話すなと上司から言われていると言う男が、髑身の格好をしているとは思えない。
「死神が何でこんな……」
彼が着ているのは顔の上半分だけを覆うお面と、頭部全体を覆う骸骨の頭巾、そして漆黒のラバースーツ。全身を包むそれは彼を人間ではなく、死神にしてしまっていた。
何だか妙に腹立たしい気分になる。もっとも、僕が口出しできることではないので余計に始末に負えない。
「それで、話の続きですが」
こちらに取り合おうとしない竜崎が視界から消えないように、後ろへ振り返ることはせずに、彼はそのまま話を続けた。
キラが罪の無い者を殺したのだとすれば、それだけで特別視すべきことだ。確かに奴は今まで罪を犯した者しか殺してこなかった。捜査本部にいる面々で、全員が把握しているとは限らないが。
しかし、だからといって罪の無い者を殺し始めたという噂が流れるのは、いささか不自然な気もする。
「たしかに、俺が独断で決めつけているだけかもしんねェな」
「うん、僕たちが知らないだけで、噂の人物は犯罪者だった可能性もある。だから話半分ってところだよ」
松田さんの言葉に僕は頷いた。が、妙にひっかかるところがある。竜崎が指摘した点、そしてもう一つ。何故、噂の発生源が医療関係者が集まる掲示板なのかという点だ。
心臓麻痺で死んだ人間に、何か異常があったのだろうか。
それとも、キラが殺した人物で、捜査線上に乗ってきた者でもいたというのか。
いくつか考えるべき要素が浮かぶ。だが、僕たちに与えられた特権は時にこうした憶測を許さなかった。
「あー、キラに目をつけられては敵いませんからね、僕はこの辺で失礼しますよ」
「相変わらずお前は自分のことばかりだな」
東野さんはコーヒーのおかわりを注ぐように呼び寄せ、脇に抱えていた資料をテーブルへと置く。東野さんは自分のカップにコーヒーを注ぐと、底にコーヒーの粉が溜まらないよう、丁寧に掻き混ぜながら言った。
「何度も言うようですが、キラ対策室には到底思えませんよ、この捜査本部は」
「そう言うなよ、東野さん。確かに危ない橋を渡っているのは確かだが、それもこれも国民の安全のためだろ」
「それで、何か進展はあったんですか?」
呆れたような東野さんの言葉に、松田さんが苦笑いしながら冗談を言う。
「『何か』って、東野さん、ここに居る全員が居るのに、そりゃないですよ。俺たちも、まだ手がかりを探しているところなんですから」
「ふん。手がかりを探しているのは、今に始まった話でもあるまいに」
東野さんは、自分が淹れてきたコーヒーカップに口を付けながら、面白くもなさそうに吐き捨てた。何を言っても無駄だと言わんばかりのその態度は、僕達の会話を盗み聞きしていたというより、あからさまに嫌そうな口調だった。
まぁ、仕事の半分はデスクワークと言っていい捜査だ。事件の進展がほとんどない上に、外部からはネットを覗いているようにしか見えないオフィスの中だ。捜査員が皆ストレスを溜め込むのも無理はない。なかでも松田さんは、僕と竜崎の二人に絞って行動している関係上、そのイライラを竜崎へ向けることも多かった。どうやら俺が相手をしているから、とやきもきする部分もあるらしい。
松田さんは「まあ、確かにここ最近は退屈ですからなぁ」と、さして不満そうでもない声音で呟く。どうやら僕の予想は当たっていたようだ。いつもならこのような会話は、口論になりかねないものだ。しかしこの歳で少年犯罪を取り締まっている刑事でありながら、妙に小心な松田さんは、こう見えてちゃんと空気を読む。竜崎の不機嫌そうな表情を見て察したのか、冗談の通じない相手に苦笑しつつも、上手く会話を打ち切った。
何だかんだでここまで真剣に話し合ってきたが、キラの噂に関する話題など今日はとうに終わっていた。捜査本部に来ている他の刑事達は、捜査の進展がないことが苛立っているのか、そわそわと落ち着きがない。パソコンに向かう者、資料を読み込む者、その姿は様々で、中にはうつらうつらと船を漕いている者までいた。
せっかく本物のLが居るというのに、誰一人として会話をしようとする者がいないのは、昼夜逆転した捜査を何年も続けていれば誰だって疲れるということか。などと思いつつ、僕は机の上に置かれた、ずいぶんと減った角砂糖の山を見つめる。確か昼前には、かなり高くまで積み上がっていたような気がする。
竜崎は異様なくらい甘党なのだ。直接スプーンで口にするほどだ。四角い塊である角砂糖をそれそのまま食べてしまうのはいいとしても、どうしてわざわざ、バランスの悪い積み方を崩さないよう神経を使いながら食べる必要があるのか、いまだに理解できずにいる。
「しかし、それにしても、きな臭いですね」
「……今のはどういう意図だ?」
「どういう意味も何も、君がキラ事件のことを調べててきな臭くない情報なんて、今までに一度もありませんから」
松田さんは対して意に介した様子もなく、自分のマグカップの中をまじまじと見つめながら、フーフーと湯気を飛ばす。確かに、ネットで拾ってきたキラについてのデマを調べるのは、少し面白みに欠ける作業だと言える。けれど、もしもこの噂が事実なら、今まで見落としていた何かにつながるかもしれない。
ふと気がつけば、竜崎がじっとこちらを見つめていた。何か言いたげに口を開いては、それを飲み込むようにまた閉じる。迷っているような、言いよどんでいるような様子に、もしかしたら何か思うところがあるのだろうかと、こちらを見つめ返した。やがて何か思い至ったように、ゆっくりと口を開く。
「それで、月くんが言う『何か』と言うのは、結局のところ何なんですか?」
重い沈黙の後に放たれたのは、そんな陳腐な感想だった。
何を言い出すのかと思えば、竜崎の口から出てきたのは、僕がわざわざ調べたことを大したことではないとでも言いたげな態度だった。正直、がっかりする。私はキラに自分の居場所や正体を掴まれないため、世界中の警察機関に擬装させた情報操作をしている。これだけ手を尽くした上で、僕がふと漏らした本音が、単なる陰謀論扱いされようとしているのだ。
「キラが無差別に人を殺しているんじゃないかっていう話を、どうして軽んじられるんだ。それは僕が調べた中では、一番可能性のある話なんだぞ」
苛立ちを込めた僕の言い方に、竜崎はちろりとこちらを見上げると、再び角砂糖の塔へと視線を戻した。
「たとえそれが真実でも、今は動かない方がいい。それに、仮に本物のキラが罪を無い人を殺しているとしても、本当に罪の無い人は、キラに殺されるはずがないでしょう。もしそうなったら、それはきっと何かの間違いか誰かの勘違いってものです」
「竜崎はそれでいいのか? いざ自分が無実の人間って事になったら、たまったもんじゃないって思わないのか」
「私が言っているのは、その無実の人という前提の話です。実際に殺された人の無実を証明するには、厳重な鑑定が必要になります。噂の人物は医者もカルテも残さないほどの事件性のなさか、またはカルテを残さないわけにはいかないような、重大な持病でも持っているのでしょう」
竜崎は相変わらずピラミッド状の角砂糖の塔に目もくれず、淡々と言った。いや、実際に角砂糖の塔は既に崩れてしまって、今は机の上で砕けた破片が無残な姿を晒していた。
竜崎に言われて松田さんは、反論したいのか口を開きかけるも、何か思うところがあったのか、そのまま何も言わずに口を閉じた。
「何か考えているんですか、竜崎」
「いえ、考えているのは月くんも同じでしょう。彼の事件を詳しく調べたのは、初めてのキラの仕業とは言い切れない事件について、独自の捜査を見せる口実が欲しかったから。違いますか?」
竜崎が口元を歪めて笑う。
その言葉に、僕は竜崎にだけわかる程度に、ゆっくりと首を縦に振った。どうやら僕の思惑を読み取った上で、先に言わせた形らしい。 何でもお見通し、というように見えて、実際には僕の意図を探っているのだろう。これが偶然かどうかは分からないが、僕はこの結果に満足だった。
「はぁ、なるほど。キラは罪の無い者も殺すんだな」
「ですが、どうして今更こんな情報が流れているんです? 今まで動かなかったということは、何か理由が?」
「そんなの簡単だ。今回の犠牲者は“死んだら自分の立場が危なくなる”って奴らばかりだってのを、噂にしたんだよ」
竜崎は新たに、また角砂糖を一つ摘まむと、今度はコーヒーカップの中へと落とす。僕の説明に、松田さんは少なからず動揺しているようだった。自分の言ったことの意味に気づいて、言葉を失っているようでもある。
「そういうことだ。キラは警察内部の情報に詳しい人間、いや……警察組織にいち早く取り入って、キラについての調査が行われている情報に触れることが出来る人間が、警察に紛れ込んでいるんじゃないかと思っている」
それは、今、この場に居る僕たちだけで言い合っている分にはいいが、一度でも口にすれば、疑いがメンバーの連帯を壊すかもしれない爆弾でもあった。
「松田さん。そのコーヒー、冷めない内に飲んだらどうだ? 折角淹れてもらったのに、冷めてしまっては美味くもないだろう」
「え? あ、はい」
竜崎は考え込む様に、積み上げられた角砂糖の一つを手に取ると、今度はコーヒーに沈め始めた。
その一方で、いつの間にか増えていたザラメの山を崩さないよう、ゆっくりと確かめるように指先で突いていく。
指先でツンツンと突いて、シリコンの上でグラつき始めた角砂糖の立方体を見つめながら、竜崎はフォークすら持ってこなかった自分に呆れたかのように、小さく吐き捨てた。
「今のところ、デスノートとの関連を示す決定的な証拠はありません。それに、本当にただの病死だとしたら、もっとメディアが取り上げてもいいはずでしょう?」
竜崎の言うとおりだ。心臓麻痺で死んだ人など、毎日のようにいる。マスコミが気にかけるはずもない。
「その辺は、もう少し検証してみないと分からないな」
念のため後で調べ直してみるよ。
僕がそう言うと、竜崎は何も答えず、テーブルに乗せられた角砂糖の塔から一個を摘まみ上げ、そのまま口へ放り込んだ。どうやらまた甘いものが食べたくなったらしい。甘党というわけでもなさそうなのに、どうしてこんなにいつも砂糖ばかり齧っているのか、その行動は不思議でしょうがなかった。
「キラが罪の無い者を殺した。ニュースやネットでも話題にならないはずがない……かといって、警察が動くような事態でもない」
わざわざ飲みかけのコーヒーを置き、松田さんは話を振ってくる。どうやら先ほどの、僕の『キラは罪の無い者も裁いている』という言葉が相当引っかかっていたらしい。
「ええ、たしかにそのとおりだ。ただ、この噂は消えなかったんだ」
これだけの情報が揃っていれば、恐らくこの噂は本当だろう。あとはこれがキラにどう関係してくるかという事だが、ここまでだ。
一通り話を終えると、竜崎はふうん、と今まで興味を失っていたと言わんばかりの口調で言った。角砂糖を口へ放り込むと、それを無造作に噫りながら、興味が無さそうに呟く。
「すると、どういうことですか」
「いや、それが分からない。キラが罪の無い者を殺すようになった原因はなんだというんだ」
キラが罪の無い者を殺し始めた――その確証はまだ何もない。噂話がもとになった憶測の域を出ない。なのに、それを確かめる術がない。そもそも、俺たちの前では名前を口にすることすら憞られる、あの男が関わっている以上、何が起こっても不思議ではないのだ。
「ひとつ、確認してもいいか?」
「何です?」
「もしも、俺がこのノートに名前を書かれたら、どうするつもりだ?」
「俺の理論が正しければ、ノートに書き込まれた名前の人間は全員死にます。だから、その前に名前を書きたいんですがね」
「……それはずるいな、竜崎。俺にキラの容疑をかけ続けている間は、死ぬことすら許されないのか?」
「月くんの潔白が証明された後の話ですが、そういうこともあり得なくはないと思っていますよ。真に月くんがキラでないのなら、本当のキラが見つかるまで貴方をずっと見張り続けることもまた、私には可能ですから」

そう言って、竜崎は初めて、口元をほんの僅かに吊り上げた。
まあ、何とも無気味な笑い方だ。自分を怪しいと思わせるのに、金も権力も恋人までをも差し出したというのに、この男は何の得もしないんじゃないかというほどの自信に満ちている。実際、この男に一度は勝ちたいと思った。――かつての僕ならば。
あの時まで、僕は確かに、竜崎の言う通りだと思っていた。もしもキラが僕であると知られれば、互いに納得が行くまで殺し合いをしても構わないと。
今はもう、それを叶えるための、あのノートもないのに。
キラをやめてから、もう半年が経っていた。

パソコンのモニター越しに、二人分の冷たい視線を向けられている。
エルは無防備な恰好でパイプベッドに寝転がり、開けたままのテレビに目を向けていた。
「……何か、妙だと思いませんか?」
先に口を開いたのはエルだった。休んでいるにしては強張った声。その一言で、彼が此の異常な事態に気づいていることが分かる。
「何がですか」
僕は敢えて平静を装い、自然な動作で足を組み直す。
「何と言うか……今回は、いくら何でも軽すぎるというか。警備の規模と言い、宿舎や機材の質や量と言い、今までとは桁が違う」
エルは顎に指を添えると、半ば独り言のように言った。俺の視線はつい、エルの手元へと吸い寄せられていく。どうやら彼の指は、先ほどからずっと同じ場所を撫でている。口元こそ隠れているが、無意識に現れる痣が何かを考え込んでいる証拠だった。
昨晩、シアトルの連邦検察ビル内に設えられた一室へ足を踏み入れた際、エルはそのまま足を止めてしまった。やけに床が近い。高さのない天井。開け放たれた向かいの小窓から、冷んやりとした空気が入り込んでくる。奇妙な違和感に囚われながら中を見渡せば、そこはまるで病院の待合室を思い起こさせるような、無機的で四角四面な空間だった。部屋の中に設置されていたのは、殺風景なパイプ椅子が二脚と、少し小さめな鉄の机が一脚。壁には観葉植物が一鉢、飾ってあるだけで、まるでまわりを何かに見張られているような気まずい沈黙に包まれていた。
部屋の隅に設置された小さな机の上に置かれた、古びた電磁調理器が湯を沸かし始める。背後では、まるで不機嫌な顔をしたようなコーヒーメーカーのガラス容器の中を、茶色い液体が静かに跳ねていた。
テレビのニュースでは、昨日、関西地方の高速道路で起こったトラックの横転炎上事故を伝えている。その中で、死亡した運転手の男が、キラを信奉する過激派団体に所属していたことが判明したという。連動して、その死亡事故の直後、週刊誌のWEBサイトに犯人を名乗る人物からの犯行声明が掲載されたというテロップまで流れていた。
どうやらこの一週間で、テレビをつければどのチャンネルに切り替えても、『キラの話題』が何某かの形で取り上げられているようだ。先週末に新たなキラへの支持者による初めての殺人事件が起きてから、メディアのこの騒ぎようである。
しかし、この薄暗い部屋の中にいると、その事実さえもが何処か現実味を帯びず、不思議と憎悪の感情が沸いてこない。むしろ、先ほどから熱心に宣伝を流しているアイドルのCMを、ちょっとうんざりした気持ちで見ているのとあまりにも変わらない感覚だった。
何せ今の俺は、部屋の中央に置かれた安っぽい椅子に拘束されて身動きが取れず、名前の他に取り柄も特徴もない、ごく平凡な大学生でしかないのだ。元々人を上から見下ろすような視線や、高圧的な態度が好きではない。それに、たとえ目の前で熱心にキラの無実を説く男に、不本意ながらも感心させられる部分があったとしても、俺は何かを知らないふりを続けるしかなかった。
無関係を装いながら、熱心に人質の命を心配するふりを続ける自分の白々しさに、思わず笑みが零れそうになるのを、僕は必死に耐えていた。今は少しでもいいから、おかしくて仕方がないのだ。
この場にいる誰もが、僕こそが本物のキラであることを知らない。何も知らない者たちは、今やキラと並び称される存在となったLに指示を仰ぐことしか出来ないでいる。
ようやく本題に辿り着いたというのに、肝心のキラがすぐ目の前にいるとは、この場の誰が予想できただろうか。
正直、そろそろ終わらせたかった。こんなくだらない茶番劇は。今までだって、抜かりはなかった。ゲームを始めてからは尚更だ。それでも、一切の綻びを生み出さないまま、犯罪を重ねることができると考えるのは楽観的だ。実際、この時は思いもしなかった。自ら、非力な一人の人間に過ぎない死神が、この長い物語を終わらせることができるとは。

フッ……。
思わず僕の口元が綻んでしまう。頬が緩むのは仕方ないことだ。突き止めた、と僕は心の中で呟いた。

その時、突然竜崎が口を開いた。
「まあ、それがキラの疑惑を高める一因になっているのは確かですからね。追う価値はあるかもしれません」
竜崎にしては素直な感想だ。いや、素直というより、僕の持ち込んだ情報を何も否定しなかったという表現が正しいか。いつもなら、難癖にも似た反論を必ずひとつはつけるというのに。
思えばここ数日、竜崎はこの状況を楽しんでいるかのようだ。積み上げた角砂糖を、今度は器用に指先だけで三つも四つも重ねてゆく。落とすまいと角砂糖へ注がれるその手つきは、繊細なのに無駄が無い。
砂糖で遊ぶという、およそ事件を調査する人間のやることとは思えない行動をしているのにも関わらず、その手付きからは彼がただ目的意識を持っているのが伺えた。
すると、自分の手元に視線を落としていた竜崎が、ふと何かを思いついたかのように、作業を止めて口を開いた。
「月くん、ひとつ聞きたいことがあるんですけど」
「何だい」
「角砂糖って、四つも入れると味変わると思いますか?」
今、会話に参加する気はないと思っていたのに、そんな意味不明な質問に、僕は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
「……コーヒーに入れて飲むんだよ、そういうのは砂糖を口に入れてからコーヒーを飲むタイプの」
竜崎はいつもこうだ。本当に僕の質問を聞いていなかったのか、それともはなから聞く気がないのか。無駄に積み上げられた角砂糖の塔と、ニヤリと笑う竜崎の顔を見て、こいつに訊いても無駄だったかと、僕は内心、呆れ混じりにため息をついた。
まぁ、もともと期待
我不由得发出带有威压感的声音,松田先生见状,像是要说“算了算了”似的,将双手上下摆动,连忙安抚起来。

“解释起来也很累了,而且我现在说什么月君你都不会接受吧。所以,我决定不介入那个事件了。”

“我说你啊……姑且不论是不是奇乐,但确实有很多人被杀是事实。就因为这个就说累,打算放着不管吗?别开玩笑了!”

我越过松田先生的肩膀瞪向龙崎,踏出一步准备再次逼近。但就在那一瞬间,原本像闹别扭似地垂着眼的龙崎突然睁开了眼睛,一双冰冷至极的目光直直地向我投来。

“请不要误会了,夜神君。”

随着这句比平时更加冷淡、更加平淡的话音落下,我不由得停下了脚步。 方才还像孩子一样撅着嘴的那个人,简直让人无法相信与现在这人是同一个人——他脸上的所有表情都消失得无影无踪。

“我……以及L这个存在,既不是警察组织,也不是扬言要解决世上所有悬案的慈善家。我只不过是出于兴趣从事侦探业,倾尽私产、只解决合自己胃口的案件的个人罢了——而我现在想解决的只有基拉事件,不是什么其他鸡毛蒜皮的案子。”

对说出“鸡毛蒜皮”这种话的竜崎,我打心底里涌起一股怒意。但我也能理解这家伙想表达什么。无论有多生气,这话本身并没有说错。愤怒与反驳都堵在喉头,一个字也说不出来。
「如果你认为本案是杀人事件,那么调查它应该由日本警察组织负责。」

「……既然如此,为了证明这只是一起与基拉无关的杀人事件,也该听听你的推理吧,龙崎。」
我握紧拳头,深吸一口气,努力不让声音里带出怒意,故作镇定地向龙崎问道。如果现在再次情绪化,他很可能就会以此为借口闭上嘴。我强迫自己冷静下来,先听听他的答案再说。
但是。
“哦呀,还不知道凶手是什么人吗?真是意外,我本以为以月君的程度应该马上就能明白……看来是我高估您了。把您招进调查本部也许是个错误。”
龙崎微微歪头,眯起黑眸,仿佛在观察我的反应。
明显是故意激怒我。那句话让我最后的防线再次崩溃,我一拳打向龙崎的脸,同时,龙崎的脚也踹在我的脸颊上。我们俩的脸各自朝反方向偏去,连在一起的手铐链子发出激烈的响声。

结果,光靠松田先生一个人根本拦不住,直到我老爸一脸无奈地出面,我们这场愚蠢的争吵才终于停了下来。
那之后,我不顾一切地想要找出龙崎得出的答案,但自从四叶的情报浮出水面后,这件事就被我抛到脑后了。

同年十一月。
夏日的酷暑已经完全消散,从窗户缝隙间钻入的冷空气开始预示着冬天来临的时节。
我在弥莎和新同居的公寓——这里也是新的搜查总部——主持着搜查会议。宽敞的客厅桌子上,并排放着迄今收集到的资料和探员们的笔记本电脑,正面的电视里,今天也在播报着被基拉处决的罪犯的相关新闻。
“话虽如此,想找到基拉的踪迹果然还是很难啊。”
松田さん望着电视屏幕上放出的报道,一脸疲惫地靠在了沙发上。他随即卸下全身的力气,仰头望着天花板,深深吐出一口气。
要是在平时,看到松田さん这副态度,相沢さん早就怒吼出声了。但此刻,或许是连提醒的力气都不剩了吧,相沢さん也只是表情沉重地低着头,一动不动地看着手里的资料。
这也难怪。因为至今为止一直身处搜查本部中心,用比任何人都强硬的手腕带领我们的领袖——龙崎,已经丧命于基拉之手。
“毕竟四叶那会儿,第三基拉火口能成为突破口,但……杀了L的本尊基拉,恐怕就没那么容易上钩了吧。”
父亲在桌上交握双手,凝视着电视上播出的新牺牲者姓名,声音沉重地开口。那语气中,仿佛至今仍充满了没能保护好龙崎的悔恨。
“是啊。而且,我们现在也无法像龙崎那样大胆地行动。恐怕需要花上更多的时间……”
“不过以这种制裁的速度,只怕在这期间,世界就要变成崇拜基拉的样子了吧。”
松田的话音刚落,相泽先生这次抬起了头。他深深地皱起眉头,正要开口呵斥的瞬间。
“但是,我们在龙崎的墓前发过誓。一定会抓住基拉。即使全世界都认可基拉,我也一定要把基拉抓起来。”
我像是要拂去室内沉闷的空气般,平静却坚定地说出了这句话。
现在的我,被要求的是作为新的年轻领袖,激励搜查员们的言语。我抿了抿嘴唇,为了坚定决心而抬起头。优秀的前导者,同时也是失去挚友的悲痛青年。我一分不差地模仿着那个身影,在脸上挂起寄予了坚定不移决心的认真表情,提高声音。
看到我的样子,搜查本部的士气似乎也恢复了一些。父亲他们都一个个绷紧表情,重新下定决心的同时,松田先生则大喊着“说得对!”一下子从沙发上站起来。虽然稍显突兀,但那精神饱满的样子,多少缓和了原本沉闷的气氛。
“我也!不抓到キラ绝不放弃,月君!”
“嗯,为了龙崎,一定。”
我平静地点了点头,作为回应搜查人员们决心的新领导者,有力地说了出来——。
『明明你才是キラ,却还装模作样地撒谎呢,月君』
紧接着,在耳畔响起的,是那个无论怎么努力忘记都绝不可能忘掉的,龙崎的——L的声音。
それは、丁度この部屋から見える場所に建つ、巨大なテレビ塔が真っ赤にライトアップされ、日本中の注目を集めていた時分のことだったか。
その日も、いつも通り西暦寺邸に向かった僕は、そこで見知った顔を見つけて足を止めた。
「月くん、おはよう」
変わりなく無邪気に笑うミサは、不意に僕の名前を呼び、微笑んだ。その顔を見た瞬間、早くも視界が歪み、涙が溢れてくる。ミサも、同じく涙を浮かべて駆け寄ってくる。それでも、頬を伝う涙をそのままに、口元に無理やり笑みを作り、絞り出すように言った。
「あ……南空さん、キラ事件の捜査は協力出来ないって言ってきたよ」
「そう……だよね。そりゃそうだよね……」
「ねえ、それよりも……本当に、いいの?」
ミサの問いかけは、いくつもの実験の結果――夜神月が本当にキラであると分かってしまったことを意味していた。
実は今、日本中から、いや世界中からキラの捜査が始まっている。特別に日本のキラ対策本部は、北村太郎長官の上申によって存続が認められた、海外の人間を中心とした捜査メンバーによって、捜査が続けられていた。
俺は捜査本部を外された。ミサに近づき、情報を聞き出す為に。その目的の為ならミサと恋人になる事だって厭わない――という、竜崎直々の指示により、監視と囮を兼ねた役目を任されたのだ。しかし、そうして作られたミサとの関係は、僕の知らないところでゆっくりと育ち、本物の恋に変わりつつあった。目的のためならと、ミサに「愛している」と言った日から、ずっと罪悪感を抱え続けながら、僕は偽りの日々を積み重ねている。
ミサは今、後ろのダイニングで薬のシートを机の上にばら撒いていた。きっと、これからデートに出かけようと身支度をしているところだろう。またあんな格好で外に出るのだろうか。ミサがペンションのドアを開けると、急に顔を覗かせた死神が「おや、出かけやすのか?」と聞いてくる。
「うん、ちょっとここまで」
「ならば残念じゃ。あと一本、アシタカはまだ届いとらん」
「ずっとこっちにいるからね、アシタカって。ドアを開けてもいないのに顔を出すな」
「やや。ミサはまた太ったのではないか? 最近は目に見えて出っ張ってきたぞ」
「何言ってるのよ、太ってないわよ、もう」
「では、今すぐサイズを測ってやろう。まさか、私の存在が邪魔になるとは言うまい?」
ミサがベッドの近くに飾られている花の手入れを始めた。
「りゅ、竜崎……」
「ねえ、ミサ。こうして俺が此処にいるってことは、何かお前に用があるからに決まってる」
竜崎がミサの髪をくしゃりと撫でた。
「そう言わないで、少しは休みなさいよ。月くんも心配するから」
「月くんは、ミサに何もするなとは言いませんでしたよ。私も、まさか自分に心当たりがあるとは思っていないので、『海外にでも逃げてろ』とか『殺されるよ』などと恐怖心を煽るようなことはしませんし」
「それは、そうですけど……。っていうか、今の言い方ですと、私が何か心当たりがあるみたいに聞こえるんですが」
「ええ、もちろん。私が言っているのはそういうことですよ、ミサさん」
含みのある言い方に、ミサが首を傾げて小首を傾げた。何か言おうと口を開きかけたが、僕の顔を一瞥すると、そのまま言い募るのをやめる。
「そうですか……竜崎がそう言うなら、そういうことにしておいてあげます。ところで、何か手がかりは掴めそうですか?」
ミサは先ほどまでのことを聞かなかったことにして、あっさりと竜崎へ質問を戻す。先ほどまでの含みのある言い方も、そういう可能性を考えた上でのものだったのだろう。問題ない。今のミサは、こちらが検討した通りに動いてくれている。
会話は完全に、前回僕が行った通りの流れだ。
この場所で、僕の企みに一切気づかず、思いのままに動くミサを見ながら、僕は行動を開始したのを確認する。
あの日。Lに真実を暴かれてから、覚悟していた僕の最期。しかし、僕は生き延びた。そして、その代償として、完全に殺人衝動を失った僕は、今も尚、囮のまま、目の前で起きている事件の推理を続けていた。
結局、キラを捜すには、僕の完璧なまでの完全犯罪が世の中に必要とされている限り、キラを捕まえなければ、偽りの世界を構築するまでのキラの計画は進まないことを嫌というほど思い知らされた。
だが――。所詮、キラを目指した月は、Lには敵わない。
現代の犯罪者達が軒並み死に絶えてから十年、誰もまともに取り合わなかった初期の事件。数多のミスや失態を乗り越えて、ようやくここまで辿り着いたのだ。
この事件の真相を記したノートを出すよう、執拗に迫る世界的に有名な探偵やらを出刃包丁で刺し殺し、これで漸く単独犯の犯行に偽装できる。
これからは、わざわざ自首などという見苦しい芝居を打つ必要もなくなるだろう。
もう十分、長く生きた。
長く生きすぎて、人を殺す罪悪感すらも感じなくなってしまった。
それだけならまだマシだ。殺しへの感覚が麻痺してしまうだけなら、どれだけ良かっただろう。
問題は、もう自分には時間がないのだ。理性で考えることをやめれば、自らの行動を肯定するための仮面を全て脱ぎ捨て、殺戮に真っ向から邁進することも出来る。だが、現実はそううまくいかない。
けれど、時間がない。無理やりにでも自分を殺し、キラであることを捨て去り、死んでいくことを望めば、それができるかもしれない。されど、それでは意味がないのだ。
ならば、このまま。
そう悟った時、僕は四十九日を迎えるであろう竜崎の葬式に参列していた。

十一月。落ち葉が風に舞い、木枯らしが枯れ葉を巻き上げる頃、晴れ上がった空の下で、その葬式は行われた。
式場は終始静謐に包まれ、参列者達も神妙な面持ちで、厳かな雰囲気の中、粛々と執り行われている。ひっきりなしにシャッター音を響かせる報道陣や、海外から駆けつけたのだろう関係者、様々な人種の偉人達が参列する中、僕は葬儀委員長でもある父さんの後ろに控えるようにして、その様を静かに見守っていた。
だが、その実、僕の内心は穏やかではなかった。喪服のポケットの中で、強く拳を握り締める。
(やっぱり、改めて実感すると辛いな……)
名目上は、何の事件か知らされていないメンバーに溶けるようにして手配された、大規模な葬儀。国を挙げての一大イベントとして、マスコミにも大きく取り上げられ、名前も知られていたLが亡くなったという報せは、国を越えて世界中に伝えられていた。
会場には、世界各国の要人や捜査機関の関係者が参列し、今か今かと斎場から現れるであろう霊柩車を待っている。
だが。
「全く……アイツは本当に、死ぬまで僕の仕事を増やしてくれますよ。どうせなら、もう二度と起きない場所へ消えて欲しかったんですがね」
僕は無意識に、手首に付けられたスマートウォッチを弄っていた。竜崎の遺体と共に焼かれる予定のそれを、今この時もキラに狙われている僕を守る、生命線とも言える装置。
その液晶に映された、数々の証言を思い出す。そこに在ったのは、有名な探偵という仮面を被り、真実を見破る天才、そしてミサや同席者をしばしば恐怖のどん底に陥れていた姿――予想通り、思った通り、想像の通り。何一つ、僕の推理と狂いはない。
「月?」
「……ああ、ちょっとボーッとしてた。竜崎の言うことも、Lの言うことも結局あいつらは自業自得でしょ? 僕達が気に病む必要はないって思ってたんだ」
どうやら僕はこれから――Lや竜崎の根回しで、遂にキラを暴く、その第一歩を踏み出す。
何か言葉を漏らしそうになった。思考を振り払おうと首を振ったところで、ふと、視界の端に何かが映り込む。見れば、中央に置かれたローテーブルの上、紙コップに入った飲みかけのコーヒーが置きっぱなしになっていた。
それを見て、自然と顔が綻んだ。今日のコーヒーのおかわりを淹れに来たミサが、ついさっきまでここに居たことを思い出したのだ。捜査に夢中で、今は自室にこもって眠っているのだろうか。先ほど、ミサが淹れてくれたばかりのコーヒーの香りを思い出す。
「ミサ。コーヒー、淹れ直してくれないか。少し冷めてしまった」
自然と、声をかけることを思いつく。
松田さんに伝わるほどの声で。傍から見れば、献身的な恋人を気遣う優しい声に聞こえるであろう声で。
「え、あ……うん。分かった!」
二つ返事で返事をしたミサは、スキップでも踏みそうな足取りでキッチンへと向かっていく。そんな彼女の姿を微笑ましげに眺めながら、僕は机の下で拳を強く握りしめた。
顔を上げ、薄ら笑いを浮かべる男の姿が、頭の隅からチラつくのを、俺は、――キラは、振り払うようにして、静かに冷たい決意を固めるのだった。

■ □ ■ [終] ■ □ ■

■□■ あとがき ■□■

初めて読者様のお手元に届いた『DEATH NOTE―デスノート―』 第109話、実際に書いたお話が本誌で公開されるのが、私が四十周年を迎えた四十五才の時で、それが偶然にもLが『月くん』と呼ばれているのが聞こえて振り向いたあの回でした。

それからです。お別れを寂しいと思ってくださる読者様の声によってこの新作が生まれたのも事実。本当にいつも勇気をいただきありがとうございます。

最愛のパートナーを喪った夜神月のその後の物語を綴りました。既に何作かシリーズで書いてきまして、また今回のように続き物になる予定です。どうぞ、宜しくお願いします。

きっとこれは月の仕業だ。そう確信したライトは何も言わずに去っていった。引き返すことのないその後ろ姿を、僕は一歩も動けずにただ見つめることしかできなかった。
あれから何を食べても味がしない。眠れども見る夢はいつもあの日々で、決まって夜中に目が覚める。
どうして僕が、ナイトバッグを足に巻きつけて飛び降りたのか。お前は最初からキラを殺す気で、あの部屋にいたのか。
顔を合わせる度、ミサには何度も問い詰められてきた。ごめん、と僕が謝れば、彼女は安心したように微笑んで、きつく抱きしめてくる。そして少しだけ首を傾げ、悲しげに笑いながら「もう良いんだよ」と言うのだ。
良い訳がない。何が良いのだ。
わかってくれているのか、僕がこうして平然と生きている意味を――。
任務を完遂する為に殺したという意味では、僕もキラと同罪だ。いや、親友の命を奪った犯人として誰よりもキラを許せないのは竜崎の為にもならない。それに、この復讐を放棄するというのなら、僕は、ライト・ヤガミとしての自分をも殺すことになると分かっていた。
やがて死ぬだろうと薄々感づいていたのだ。思い返せば、ミサが現れた時点で、僕は自分の人生のレールから外れていたのだ。この、八月という暑さに何もかもを奪われてしまうまでは。
それでも。
「はい。ですが、僕達がキラを捕まえるまで、竜崎がくたばるわけにはいかないでしょう。僕等が必ず事件を解決します」
最愛の伴侶を失った痛みを、今はまだ胸の奥にしまい込み。神の如き完璧な笑みを浮かべる夜神月という仮面を顔に貼り付け、再びゆっくりと口を開いた。ずるい男だ。強がりを口にしている間だけは、あの頃の何もかもが上手くいっていた時を思い出せるから。

十一月も終わりに差し掛かる、ある日の夜。月は松田の見送りを、マンションの部屋の前まで行って行なっていた。
「それじゃあ、月くん。また明日。おやすみなさい」
「ええ。おやすみなさい、松田さん」
ほろ酔い気分の松田さんは、もう連日のキラ関連のニュースで心が挫けてしまったのだろうか。ふと見せた落ち込んだ表情も、それでも僕の顔を眺め、優しく微笑む。さすがに常に完璧な仮面は被っていられないらしい。誘い出された飲み会は、さながら葬式のように静まりかえっていたと、前に松田さん本人から聞いた。食事の席なのに、一番多い話題が日々減りゆく犯罪者の数だなんて、本当に暗い話だと思う。
「今日はありがとうございました。気を付けて帰ってください」
思わず見入ってしまったけれど、彼の前では思考を読まれないようにしなければならない。そのため、僕は平静を装って、ごく自然に別れの挨拶を済ませた。
松田さんは「はい!」と元気よく返事をして、それから一度だけこちらを振り返った。
「月くんこそ、たまにはちゃんと休んでくださいね。あれから全然休んでないでしょう?」
「ああ……君たちこそ無理をしないでください。竜崎のためにも、僕等がキラを捕まえないといけないんですから」
「そうですね。また明日、本部で」
「ええ、お疲れ様です」
松田さんが軽やかな足取りでエレベーターへと歩いていくのを見送り、僕は自室に引き取ることにした。
同じマンション内にあり、独りで居る時には出来る限り使うようにしている思考を妨げないため、真新しい家具は配置されていない。
真っ暗な部屋のドアを閉め、鍵をかける。カーテンの閉め切った部屋には、冷たく沈んだ空気が澱んでいた。――部屋の主を失ったこの部屋は、まるで時間が止まってしまったかのような、静まり返った空虚な空気が漂っている。
僕はテーブルの上にどさりと掛けていた鞄を置くと、そのまま置いてあった古びた木製の椅子に腰を下ろし、いまだ何も手をつけていない白い封筒の束を見下ろした。
この部屋は、今は亡き父のものだ。父の母、つまり僕の祖母が入院した時に、長らく閉鎖していた一軒家を久しぶりに訪れた際、何やら浮かない顔で家の中を掃除していたことを覚えている。雑談の流れで、その時に捨てずに持って帰ったのが、この鍵と――机の上に置いてある封筒だ。
「……とうとう、こんな日が来てしまったな」
独り言のように呟くと、僕は机の上に置いた茶色い封筒に手を伸ばした。それは、ライトが生前に残した一通の手紙。
「俺の……『ノート』が死ぬと、発動するらしいからな」
封筒から取り出した古い便箋に記された、ミサの字ではない、もう一人の僕の筆跡。
読むまでもない。何を書いてあるかは、手に取った瞬間に分かっていた。だが僕は便箋を手に取り、折り目に沿って開きながら、繋がれた手錠の鎖が動くたびに僅かに聞こえる、じゃらりという音を感じながら、何も書かれていない裏面を確認する。そこに何も書かれていないことを確かめた上で、僕はもう一度、表に目を落とした。

月は 何があっても キラにはならないでください

差し出された紙の文字を、僕はもう一度読み返す。そこに書かれた一言一言が、まるで自分の心臓の鼓動にでも合わせるかのように、僕の胸に深く突き刺さる。忘れようにも忘れられない、あの日の光景がフラッシュバックのように蘇ってくる。
手渡された紙切れ一枚に、こんなに胸が締め付けられることはそうそうない。どれだけ言葉を重ねても、伝えたかった想いは今もこの手のひらの中に残ったまま、宛先のない言葉だけが虚しく、紙の上を踊っていた。

それから数日後の夜のこと。
新しい情報がもたらされた。
「どうやら死んだ四係の刑事の一人が持っていたらしいです。『ニヤ』が捜査に加わってから、初めての成果ですね」
部屋の外から聞こえた声に、僕は顔を上げる。見ると、松田さんが携帯電話の画面をこちらに向け、その先に写る画像を確認するよう促していた。拡大された画像には、文字の書かれたメモ用紙が写っている。
『Xではなくキラが裁く』
「月くん。これ、どう思います?」
松田さんが携帯電話をしまいながら、興味深そうに尋ねてきた。その声には、困惑の色が混じっているようにも思える。
Xとは何を指すのか。そして、どうしてキラが裁くのか。全くもって意味が分からない。分からないが、この意味深な言葉は、絶対に何かのヒントを隠していると直感する。
僕が何か手掛かりはないかと、この奇妙な書き置きの意味を考えていると、その場にいた全員の携帯電話が一斉に着信音を鳴らし始めた。
何事かと僕達が固まっていると、一人の捜査員が電話に出た。何やら真剣な表情で話をすると、驚いたような声を上げながら、ゆっくりと電話を切る。その面持ちは、良い知らせとは程遠いものだ。ここにいる誰もが、そう察することが出来る表情だった。
「――皆さん、大変です。先ほど、第二の……Lの死亡が確認されました」
その言葉に、部屋にいた全員が息を呑み、顔を上げる。
――本当に止めるとはな。あの男は。

月の部屋の前に張られたコーモン用のテントの中、半ば予想通り、いや、予想以上の早さで、ミサの父である、月の新しい“父親”が凶行に及んだことを知った僕は、ぎこちなく固まったままそう呟くことしか出来なかった。
「……で、話し合いの結果、どうなったんですか?」
「それが……養子の話は白紙、月くんとわざわざ分かれてくれなくてもいい、という話になりまして。今後はミサさんとも二人で会うことはなくなります。月くんのことは、精一杯の友情を以て対応する、とのことでした。ですが、あの様子だと時間の問題でしょうね」
「そうか。竜崎の言っていた通り、何を言っても無駄だったわけか」
松田さんと話しているうちに、僕はあるアイデアを思いついた。せっかくヨツバに情報操作を仕掛けているのだから、私の理論を構成している決定的な何かをわざと海砂に見せてしまう、というのはどうだろうか。
「そうですね。ですが、今日はもう遅いですし、そろそろ失礼しましょうか。そう言っていたので、どうやら月くんは、あれからまだ自分から話しに行く気はないみたいですね」
「海砂さんも何か思うところがあるみたいだしな」
きっと竜崎は、何も聞き出せないのなら明日また出直すつもりでいた。だが、僕はそうもいかない。そのまま何もせず一日を終わらせるわけにはいかない。かと言って、外に目を向ければ、すっかり日も落ちて辺りは暗い。
逡巡した末、僕は携帯電話を取り出し、海砂に発信した。
「もしもし、ミサ? 今、大丈夫か?」
『うん。大丈夫だよ。っていうか、携帯、マナーモードにするの忘れててごめんね。月くんの着信で気付いたよー。竜崎さんは大丈夫だった? 確かこういうの、着信マナーモードとかって言うんだよね。ね、最近のやつは受信拒否設定もできるんだよ。あ、でも、本当は電源そのものを切るのが一番なんだけどね☆ 今度は本当にマナーモードにしておくから! 私、今日はまた一段と冴えわたってるよ! これならもうバッチリ!」
それからも、ミサの止まらない話は続きそうだったが、途中から別の内容に変わっていた。最初のうちは尋問の口調だったものが、徐々に不安を含んだ声へ、そして最後には泣き出しそうな声になっていた。
「……キラ、は、私が、最初で……そう、私が名乗りを上げた時から、ずっと……今でも、ずっと……」
か細い声で話すミサに、僕は声を荒げることも、遮ることも出来ず、ただ静かに彼女の言葉を待った。
「――私、思うの。ニコラス・D・ウルフウッドは、キラじゃなかったって」
ニコラス……誰だ? 全く身に覚えのない名前だ。どうやら松田さんや父さんも聞き覚えがないらしく、それぞれが困惑した表情で首を傾げ合っている。
ミサは悲しそうに、そしてひどく辛そうに、言葉を絞り出すように続けた。
「彼は……自分の犯した罪と向き合い、深く傷つきながらも、贖罪のために生きていた。あんな人が、キラであるはずがない」
「ミサ、いきなり何を言い出したんだ?」
相沢さんが眉をひそめ、困惑した表情でミサを見やる。慌てた様子の松田さんも「そうですよ、ミサさん」と付け加えた。
「キラはちゃんと一般市民を装ってるけど、あんな無実の罪を着せられた人まで、キラのやり方で裁くのはどうかと思って……」
「いや、そうじゃなくて。お前、最近まともな発言をしなくなったから、大丈夫か? 疲れてるんじゃないか?」
「あー、大丈夫です。心配かけてすみません。それより、次の対策を考えないと……」
相沢さんが心配そうな顔で覗き込むと、ミサは笑顔で答えた。何かを考えるのをやめてしまったかのように、あっけらかんと言う。

その夜、私は一人でホテルの一室にいた。誰も居ないことを確かめて、誰も居ない部屋の中で、私は静かに笑った。

顔を覆っていた手を退け、息を整える。部屋に人の気配はない。私はもう一度、自身の手のひらを表にしたり、裏にしたりしながら、光に翳してみる。見覚えのある形。幼い頃から見てきた自分の手。その表面に刻まれた、あの世とこの世を分かつシミを見つめ、私は静かに笑みを浮かべた。
ランの手を借りて、服の上からでは分からない位置にある小さなシミ。それがたとえ、誰にも理解できないような誰かの空想上の産物だとしても、構いやしない。あのノートに名前を書かれた者、そしてこのシミを持つ者。全く同じ顔を持つ二人に、結ばれる運命が訪れるはずがないのである。だからこそ、この力を私の思いのままに操ってやろうじゃないか。人殺しの使い道のために。
最初は名無しの被害者だったはずの自分が、いつの間にか警察官としてヨツバ捜査の任にあたっている。その事実が、何よりも嬉しかった。ならば私はこの小さな蛆虫の身の丈にあった幸福を噛みしめ、より強く生きていくだけだと、静かに強く決意を新たにする。
捜査協力者として提供されたミサのマンションは、最新式の設備が整っており、生活するには何不自由ない環境だった。上階に若い女性が住んでいることを除けば、何の問題もない。――いや、待て。夕方、帰ってきたところを偶然見かけたが、昨日のスーパーの制服を着たままのようだ。何かトラブルに巻き込まれたのか、かなりゆっくりした足取りで、それでいてどことなく落ち込んだ様子に見えた。
まさか、あのスーパーの店員が、何かトラブルに巻き込まれたりしていないか――。
「どうしました? 月くん」
僕の視線に気がついたのか、松田さんが首をかしげながら尋ねてくる。僕は何でもないと首を振り、手元の書類へと視線を落とした。机の上に並べられた事件の資料。向かいのソファに座る父さんと目が合った。何か言いたげな顔をしていたが、やがて何かを諦めたようにそっと目を逸らしてしまう。


「月くん」

別れ際、思い出したように声をかけてきた松田さんは、真剣な眼差しでまっすぐに僕を見つめていた。
「僕達は、月くんの味方だからね」
「……はい、そうですね」
それは、今日というこの日を迎えるまで、何度も交わされてきたやり取りだった。
元々、何かとミサに負い目を感じているところがある。僕は頭ではキラでいることを許してはくれない父さんに心を痛めながらも、自分自身の正義を貫き通そうと、一人必死に奔走していた。
もしも僕がキラだと知ったら、この人達はどんな顔をするのだろうか。先程まで自分と話していた人物が、実は自分達が追い続けている犯人でした、なんて、笑って許してくれる訳がない。それなのに、何故だか――。
「月くん。キラを捕まえるんだろ? 私たちは君の指示に従う。なに、ためらうことはない」
「あ、ああ、そうだな。竜崎が遺してくれたこの手