战争的胜负,是由基本数量决定的。从古至今的战争,从未改变过这一点。
压倒性的个人实力有时能撼动战局。但无论多么强大的棋子,持续战斗就会积累疲劳,也不可能胜过数量多过自己弹药储备的敌人。
身为通过魔術操纵蟲群的『蟲使い』,伊泽库自认比任何人都明白这个道理。
被称作人类的生物们,无论大小,无论是否自觉,都拥有着一种能量——『玛那』。为了捕食这种由生命活动本身产生的能量,众多妖魔从异界入侵到了这个人类世界。
伊泽库也是其中之一。他潜伏于人类社会,以不至于引起太大骚动的程度狩猎猎物,过着这样的生活……但。
「切……」
夜晚。无人的公园长椅上坐着一个少年。
他穿着某所高中的校服,若被大人发现恐怕立刻就会被举报辅导,但周身却散发着一种让人望而却步、难以接近的氛围。映照着眼前黑暗的红色眼眸。如陶瓷般异常白皙的肌肤,以及十人中有十人都会回头的端正容貌。这就是如今伊泽库的样貌。
那张脸正不快地扭曲着。
────为了保护人们免受妖魔的毒手,在暗地里持续与他们战斗之人──退魔士。前几天伊泽库与其中一人发生了战斗。
那应该是个相当老练的对手吧。说白了,伊泽库被逼入绝境,险些丧命。对方穿过蟲之波,将其化解,数次斩裂伊泽库的身体。
但就在那时,伊泽库改变了战术,转为本体躲藏、运用大量蟲进行持久战和饱和攻击。说白了,就是彻底的放风筝和蹲点战法。
就算对方是高手,终究也是人类,得吃饭喝水,疲劳了就得休息。能够操控足以遮蔽整片天空的无穷无尽的蟲,必要时刻还能从蟲那里补充维持生命的能量的伊泽库,一旦认真逃跑,「人类」根本没有获胜的可能。
如此,伊泽库赢得了这场持续了整整三天的战斗,但代价也确实高昂。吞噬了拥有常人无法比拟的庞大魔力的退魔士,以及附近的一般人后,总算是恢复了部分魔力和伤势。然而距离完全恢复还差得远,尤其是——
(剩下的蟲只有战前两成左右吗……。这样连索敌都做不到啊……)
作为蟲使い的他通过蟲来炼成魔力,行使魔术和能力。失去超过半数的蟲,几乎等同于丢弃棋子,对他来说这是生死攸关的问题。
更不用说,最近因为次元连接 ( .......)的不稳定,包括他在内的妖魔们已经无法回到原来的异界了。不,这本身倒是无所谓。他和其他的妖魔们都不想离开这个绝佳的猎场。
但对于想要在异界补充减少的蟲的伊泽克来说,这等同于是断绝了手段。
(那名退魔士死了的事,恐怕很快就会报告给他们的总部……只能暂时潜伏起来。但照这样下去,别说其他退魔士了,我连和同类妖魔争斗都会输……。補充蟲子与確保魔力的能源……这些是当务之急……)
他把手插在制服口袋里踢着沙子。看似漫不经心的动作,地面却像被铁锹挖过一样被刨开了。
将自己逼到绝境的那名退魔士,与那样的存在对峙的自己的不幸,以及最重要的是,明明只是退魔士,却让身为妖魔的自己如此受苦——伊泽克感到难以忍受的烦躁。他甚至觉得连转动脑部都变得很麻烦。
如果再这样下去没有任何事情发生,伊泽克大概会毫不掩饰烦躁地从长椅上站起来,像发泄一样释放『力量』,把公园轻度破坏后离开吧。
但是,不知是幸运还是不幸。
「啊咧……是伊势 ( いせ)君,对吧?」
有个少女向他靠近。抬起脸进入视野的那个身影,他有印象。
带点灰的沉静棕色短发。垂眼,还残留着稚气的脸型。修长的四肢和纤细的腰肢。
仿佛正从“少女”向“女性”转变之中,能感受到那种氛围的少女。
────最引人注目的,是胸前那暴力的隆起。
隔着厚外套都能看出的巨大胸部。让人联想到膨胀的糯米团或棉花糖的那对事物,在衣服上挤出无数褶皱。那个尺寸,他有听周围人说过“不是85后半吗,不,肯定是90后半以上吧”……。对于只对人类抱有“食物”以外兴趣的伊塞克来说,也足以让他记住这是“胸大到离谱的雌性”。
那就是眼前的少女。伊塞克作为融入人类社会的一环而去上学的高中同学,名字是……斋藤结衣。
「你在这里做什么?伊势君……前天和今天都没来学校吧? 伊势君的朋友很担心你哦?」
啪嗒啪嗒地跑向伊塞克的结衣。随着那个势头,西瓜般大小的胸部大幅晃动,但她本人似乎毫无自觉。
伊塞克────伊势和结衣,在学校里关系并不是特别好。只是普通同学。
即便如此,她会这样担心没来学校的他并特意搭话,大概是出于她天生的善良吧。如果是个普通男生的话,或许会感谢这样的奇迹,甚至流出鼻血来。
“……如果你有什么烦恼的话,不用客气,跟我说哦?只要是我能做的────”
“吵死了”
“───啊、呀、唔……!?”
可惜的是,结衣自己没能注意到“对谁都温柔”这个优点,同时也是“缺乏危机察觉能力”的体现吧。
一切只在一瞬间。结衣视野中的伊势身影刚模糊了一下,下一瞬,她的手已经被铁钳般的手扣住,整个人被提到了半空。
直到此时才意识到状况的大脑,发出了生命危险的警报。但一切都已经太迟了。
「呃……啊、啊……!?」
“我现在心情不好。区区人类别套近乎。杀了你。”
喉咙被掐住,窒息之中,眼前的少年──伊势的双眸,与平常在教室里见到的截然不同。细长的瞳孔宛如爬行动物,血色般深红的光芒摇曳其中。
那不是人类该有的眼睛。至今为止从未见过如此骇人的表情,ゆい的身体僵住了,连挣扎都做不到。
「……せ、伊势君……?」
恐惧让她声音沙哑。然而伊势……不,イゼクはゆいから顔を背け、公園の入り口の方へと視線を向けた。
先ほどまで感じていた気配の正体は、どうやら彼女だけではなかったらしい。
「……チッ、面倒な」
イゼクがそう吐き捨てたのとほぼ同時。二つの人影が、ゆいの後方───イゼクから見て遠い方の入り口から現れた。夜の闇に溶け込むような、黒ずくめの装束。その内の一人は、誰かと通信しているのか、何やら小さく言葉を交わしている。立ち上がったイゼクとゆいの様子を察知し、敵意を剥き出しにした鋭い視線を送ってくる。
見つかった。
イゼクの頭の中で、先ほどの『退魔士』という単語が浮かんだ。
─────────
その日の夕方。イゼクは校舎裏に呼び出されていた。
「ねえ、伊勢くん、本当に大丈夫? 体調不良ならちゃんと休んだ方がいいよ?」
そう声を掛けてきたのは、隣のクラスの女子生徒だ。名前は確か、斎藤ゆい。イゼクのことを心配して声を掛けてきたらしい。
他のクラスメイトから部活の大会に行くとかで学校を数日休むと聞いて、放課後の教室を訪ねてきた。ところがイゼクは、ここ数日まさに妖魔との戦闘中で学校に来られていなかったため、自分のクラスに居ない。
「はぁ……居ないか。でも……元気にしてるかな、伊勢くん……」
彼の家の前まで来たところで、ゆいは今日こそはと会えることを期待していたのだが、どうやら家にも居ないようだ。がっくりと肩を落とす。
彼女がイゼクこと伊勢を気にかけているのには訳がある。一年生の頃、彼女は何者かに暴行を受けそうになっている場面を伊勢に助けられたことがあるのだ。それ以来彼女は、同じクラスであまり人と関わらないようにしている彼のことがずっと気になっていた。あまり話したことはないけれど、お世話になっている彼の恩を何とか返したい。
そんな動機から、自ら進んで伊勢の安否確認などという大役を買って出たのだ。
「っ、ぜぇ……はぁ……っ!?」
否、知らずに死にかけた。
今の一瞬の間に。何の前触れもなく、何の脈絡もなく。ゆいは自分の命が、今まさに消えかけていることを理解した。突然のことで何が起きたのか理解が追い付かない。
圧倒的な光景に脳が焼き切れてしまいそうだ。目の前の人物の細く、それでいて恐ろしいほど力の篭った手。これが万力の如く首を締め上げている。呼吸がしにくい。声もろくに出ない。今まで経験したことがない苦しさが彼女を襲っていた。
「ぐ、ぅ……っ! か……は……っ……!」
徐々に視界が狭まっていく。全身の力が抜けていく。死ぬ────まさに死のうとしている。しかしそんなことは本人が一番理解しているだろう。
「あー……クソ。面倒だ」
イゼクはゆいの首を掴んでいた手を離した。ずるりとその場に崩れ落ちるゆい。咳き込みながら荒く息を繰り返す。
「けほっ、けほっ……! はぁ……はぁ……!」
顔を上げると、少し不機嫌そうな顔のイゼクと目があった。お前を殺すと言った直後に命を助けられて、ゆいは困惑の表情を浮かべる。
「……何で」
ゆいが小さく問う。殺そうとしておいて、なぜ止めたのか。イゼク自身も答えが出てない内に身体が動いていたようだ。
だが口にしたのは、考えていたこととは別のことだった。
「……お前みたいな奴は、食っても美味くねえんだよ」
イゼクがそう言ってからふと気づく。さっきの衝撃で衣服が破れて下着が露出し、しかも地面に叩きつけられた衝撃で、スカートの裾が腰の辺りまでまくれ上がってしまっている。
肌の露出が多いとは言え、こちらは人間の少女。見た目は高校生。ここで執拗に視姦すれば『退魔士』ではない、一般の人間に通報されてしまう可能性もある。それに────
(……魔力的な気配は薄い。だが、この学園に通う者の一人である以上、十中八九“あの男”と無関係ではないだろう。下手に傷をつけるのは危険だな)
単に魔力の低さに『エサ』としての魅力がないため害が無いと判断された、というのもあるが、イゼクが彼女を前にして本気で殺意を失っている理由は他にある。彼の潜伏に、あまりにも都合が良すぎる人物だったからだ。
イゼクは今、高校生として人間社会に溶け込んでいる。単に身を隠すだけならこんな面倒な手段を取る必要もないのだが、人間に擬態しながら健全に生活している妖魔というのは一定数存在する。妖魔社会の……実は人間界のあちこちに存在する『協会』のようなものに、この辺一帯の妖魔たちを統括する人物がいる。イゼクもそこに登録している妖魔の一人で、その者からこの生活を義務付けられた。
この辺りで『力』を使う妖魔が増えすぎて、退魔士たちの目に留まりやすくなってきているのがその理由だ。人間社会の中に溶け込み、騒ぎを起こさず、円満に生きていくこと。それがこの地域に住む妖魔たちに課せられたルールである。
そしてそのルールを破った場合の制裁は容赦がない。同族である妖魔の手による粛清は、退魔士の手によるものよりも苛烈なモノになる。それはイゼクの嗅覚が嫌な予感として訴えかけていた。
かといって今、彼女────斎藤ゆいを無事に逃がせば、学校を三日も休んだ挙句、やむを得ずとはいえ退魔士 ( エクソシスト)を殺した男が、夜の公園でひとりごちているところを発見されて、何事もなく解放したということになる。それはすなわち、妖魔の側から見れば『奴は弱っている』という情報を、自らの行動で明かしてしまっていることに他ならない。
今度は彼女から妖魔のいる方へと情報が漏れれば。いや、仮にどこからも漏れずとも、捕食対象として手近にいた『生命のマナ』を目の前にして、喰わないという選択肢が彼にあっただろうか。蟲の回復に必要な大量のマナ。そのために必要なのは人間の命。
要するにイゼクの選択肢は一つ。この『口封じ』だ。
「俺が誰か分かるか? 人間」
「ぁ……あ……ぁ……」
強く握る手に力を込める。恐怖の為か息を上手く吸えず、声にならない喘ぎを漏らすゆい。
マナの絶対量だけならばイゼクは人間を遥かに上回っている。例え傷が癒え切っていなくとも、マナを纏わせた両腕で苦もなく少女の首を絞め上げることができた。
ギリギリと、ゆいの首が悲鳴を上げる。
「……酷いじゃないか。逃げた奴を殺すのが正義だとは思っていないが、俺は今、かなり虫の居所が悪いんだ。だから────」
自分がそういう行為に及んだことを思われたくない、と恥じらいでもあれば良かったが、イゼクは根本的に『その辺の人間』を食事程度にしか思っていない。護身用に持っていた短剣を抜いたのは、狩りの獲物を仕留める時と同じ精神だった。そんな彼からは罪悪感も後ろめたさも、微塵も感じることはなかった。
実際のところ、退魔士との戦いで満足にマナを補給できていないイゼクは、空腹も相まって苛立っている。眼前の少女のマナを吸収すれば、傷こそ癒えないが少なくとも体力は回復できる。
あまり賢明とは言えない行動だ。戦いで死にかけた場所の近くで、退魔士に退治された妖魔の死体に群がっている同族がいてもおかしくないような場所である。掃除がてら見回りに来る退魔士がいないとも限らない。
それでも、何もしなければイゼクの苛立ちは収まらない。捕まえてマナを抜き取るだけなら一瞬の仕事だ。
「────」
イゼクの手が、ゆいの首を締め上げる力を強くしていく。苦しさのあまり彼女の顔が朱に染まり、酸素を求めて浅く、しかし速い呼吸を繰り返す。ぴちぴちと跳ねるような抵抗も、次第に力が抜けていく。
「──────ほう。面白いことをする」
突如、木々の茂る方から響いてきたのは、冷静な青年の声。
イゼクが首だけを回して声のした方を見る。そこには、月明かりに照らされた1人の人物が立っていた。異形の者が生み出したとは思えない、あまりにも均整の取れた完璧なプロポーション。中性的な声に、中性的な顔立ち。髪の色は白。腰のあたりまであるそれは、青年の雰囲気によく似合っていた。
服装は黒いマントに、露出の多い服というか、もはや布と呼べるかも怪しい量の武装。肌の大部分を露出している。武器だろうか、腰に黒い棒のようなものを二本差している。ナイフや剣に見えるが、刀身が黒く潰れていて細部が見て取れない。
「なんだ、お前も妖魔 ( まもの)か」
「ん。まあ、そうだな。俺は魔獣ってやつに分類される妖魔だ。……んで、お前が『蟲使い』か。話に聞くよりずっと若いな。まあ妖魔に年齢は関係ねえが」
警戒を怠らない声音でイゼクが問い掛けるが、現れた妖艶な女は、眉をひそめて観察するようにイゼクを眺めた。返ってくる口調は気の抜けたもので、こちらに敵意がないことを示している。イゼクはこの妖艶な女の顔に見覚えがあった。
────────緋色 ( ひいろ)の長髪。蠱惑的な目つきと赤い唇。豊満な肢体を包むのは、上は所々が網のようになった黒いラバー ( ラバー)のドレス、下は臀部が露出するスリットの入ったスカートという出で立ちだ。一目で戦闘を目的とした服装だとわかる。
「その首を落とす前に、要件を言ったらどうだ?」
そう指摘するほど彼女の姿をイゼクは見覚えがあった。いや、忘れられるはずがない。忘れたくても、忘れられるはずがない。
「言っておくが、俺の『蟲』は戦いを終えた後も常に周囲に張り巡らせてある。お前がいつここに潜んでいたのかは知らないが、少なくともその隠形は最初から見抜かれている」
「……随分と警戒が厚いのね。どうやら無事とは言えねぇようだな。次元の接続が不安定になってから随分経つ。ここが頼りの俺たち妖魔の間でも、最近では退魔士の活動が活発化しているって話だ。ちょうどお前のように、身体に傷を負って身を潜めているような妖魔が狙われやすい。そこらの退魔士に見つかれば貴様も死ぬ」
イゼクの口調、その声音、瞳の光。それらをこの場で認識したゆいは────単なる少女だった。
やがて自分の首に伸びている『それ』が、少年の手であると気づく。必死に手を伸ばして、その手を引っぺがそうと爪を立てる。だが、まるで鋼鉄の檻にでも捕まったかのように微動だにしない。
酸素が入ってこない。視界が白く霞み始めた時、イゼクの手からゆいの身体が解放された。
「かはっ……ひゅっ……ぅ……っ……」
地面に落ちてむせ返るゆい。白目がちらりと見え、口からは涎が糸を引いて垂れていた。
イゼクが首を締めたのは瞬間的なことであり、意識を失う寸前で解放されたことによりなんとか命は繋いだ。魔術を使っていないとはいえ、非力な人間の少女の首を締めれば失神させることは容易い。イゼクはそれをわざとしなかった。
人間の裏をかいても、特に面白みがない。『エサ』に恨み言を言われても困る、というのが一番の理由だった。
しかし、そんな面白みがない行為をわざわざしたのは、苛立ちのやり場がなかったというのもある。それにゆいの存在が────。
「う、ぐすっ……えぐっ……」
少女の顔が恐怖で上気し、じわりと涙が滲み始める。それを見たイゼクは、とてつもなく不機嫌そうに、
「……泣くなら他所で泣け」
解放されたゆいはその場にへたり込んだ。その頬を涙が伝っていく。
もう此処に用はないとでも言うように、イゼクは無表情のまま歩き出し、闇の中に消えていった。
残された少女はと言えば、立ち上がってすぐ、膝から崩れ落ちてしまった。倒れるように地面に手を突き、荒く浅い呼吸を繰り返す。額には冷や汗がにじみ、恐怖に引きつった顔を青白くさせながら、ゆいはへたり込んだままその場から動けずにいた。
……無理もない。自分よりはるかに腕力の強い男に突然首を掴まれ、地面から足が離れるほど持ち上げられたのだ。四肢の震えが止まらないのも、涙が溢れ出てくるのも無理からぬことだった。
どれほどそうしていただろうか。十分か、二十分か。ようやく動けるようになり、そして────
「……た、すけ……て……だれか……」
必死の思いで立ち上がったゆいは、絞り出すような声を発した。震える足を叱咤して、数歩前に歩を進める。
「たす、けて……っ……!」
聞こえているのかいないのか、その声は風に溶けるようにして消えていった。
そしてゆいは気付いていなかった。自分を危険分子だと判断したイゼクが、自身の『蟲』の一つを、彼女を追跡するようにして放ったことを────
殺す。そう決めてから、イゼクの迷いはなかった。
奴の掌の上から逃げられはしない。────だが、死んで当然のクズどもが社会という網に引っかからずに生き長らえているこの人界のことだ。あの退魔士の消息を絶った『関係者』として疑われる前に、早々にその痕跡を始末してしまいたい。
後ろ手に隠すように持つ学生鞄の中、いつの間にか蟲が蠢いている。身体強化に全身の治癒。それに自分の周囲に漂うマナの気配を隠す認識阻害の魔術を、今まさに行使しているところだ。
蟲は目に見えないほど小さく、なおかつ認識阻害の魔術も相まって、学生の姿で人混みを進んでいくイゼクを怪しむものは誰一人いなかった。
あの少女───ゆいは、イゼクが放った蟲によって首を絞められ、記憶と共に気を失った。あのまま放置しておけば、その内に虫が勝手に離れて腐った花壇の花のように地面に落ち、後は虫が記憶の処理と生命活動の補助をして正気に戻ってくれるはずである。生死に関わる傷は負わせていない。直接殺してしまわなかったのは、単純に面倒事になりかねないからという理由である。学校の生徒が消えたとあらば捜索やら何やらで騒ぎになるし、ただでさえ要注意人物として認識されかけているのだ。これ以上面倒を増やす必要はない。
殊勝にも一人だけ必死に探しに行ったこの少女は、記憶操作 ( ・・・・)と記憶改竄 ( ・・・・)の魔術を掛けられ、ここでのイゼクとの会話と遭遇そのものについて忘れさせられている。ついでに『学校で伊勢を見掛けた』という偽の記憶が植え付けられており、これならば学校を休みがちのイゼク────いや、現在は『伊勢』を名乗っている妖魔に誰かの疑惑が向くことはないだろう。
かくしてイゼクは、校門へ向かって歩き去って行く。
少なくとも、後ろを振り返ってゆいを見ることは────最後まで、なかった。
数日後。夜。大学の研究室で一人の男が書類を前に頭を抱えていた。
男の名はロイ・レンフィールド。年齢は二十代前半。短く切り揃えられた赤髪に緑色の瞳。彫りが深いが、やや幼く残るその輪郭は童顔気味の端正さといった雰囲気を醸し出している。大学の研究室とはいえ、まだ年若い部類に入るであろう男がひとり、机に突っ伏していた。
「あー……駄目だ。もうらちがあかねえ」
テーブルの上には何冊もの本と書類が重なっている。手元にはノートとシャープペンシル。彼の足元に目を落とせば、ガムテープで球体に丸められた数多の紙くずや、床に落ちて踏みつぶされた文房具たちが見える。机を軽く足で蹴り、乱暴にペンを放り出すと、そのまま椅子の背にもたれかかった。
男の名は天城颯真(あまぎ そうま)。現代日本で『退魔士』として活動している一人だ。
先日、ある『蟲使い』の妖魔との戦闘を終えたばかり。負傷はしたものの、致命傷は負っていない。それなのに、何か釈然としないものをずっと感じていた。
だからこうして、深夜まで自分に残されている退魔の道具や本を調べていた。
第百四十四話 蟲と傀儡の街 第一話
「……やっぱり死んでなかったのか」
自室の机に広げた資料を前に、儚げな雰囲気の青年──相馬秀満は呟いた。彼がイゼクと戦闘を行った退魔士、その人である。
柔和な印象を与えるその顔は、学園の生徒たちの間で一定の人気を誇る成績優秀、眉目秀麗の生徒会長、相馬秀満のものと同様の物だった。
危険が及ばぬよう必要なこと以外は妖魔から身を隠す退魔士の中で、夜な夜な街を徘徊しては妖魔を探し出し戦い続ける。人間の街を守るとはいえ、その行動はかなりの暴挙であり、もし退魔士の学校である『学園』に知れれば謹慎ものの行為だ。何せ『学園』の生徒会長という立場だ。何を考えているのか、と同僚の退魔士から言われたこともある。
だが、イゼクは思う────夜の方が人間が妖魔に襲われる件数が多いと踏んでいるからだ。それに、自分と同じように『戦うこと』に何かを求めて夜の街を徘徊する退魔士もいるのだ。
そういう奴らと縁を作っておくのは、決して悪いことではない。
地面に砂埃が積もったような────否、実際に薄っすらと土埃が浮かんだような気配。
一本の影が、イゼクの背後に落ちる。
「……気配は完全に消していたはずなんだがな」
イゼクは振り返りざま、聞こえない程度の声で呟いた。
振り返った先にいたのは、見た目には『ごく普通の青年』としか思えないような男だった。灰色がかった水色の髪。紺色のオーバーオールに、薄汚れたTシャツ。手には何かの機械のようなものが握られている。
腰にはトンファーを二本差しており、その身体は一見して細身だが、服の下の筋肉はそれなりのものだと思われた。
戦いを好む妖魔の類かと一瞬考えるが、視線を向けられたことで何かを感じ取ったのか、人好きのする笑みを浮かべてみせる。
「……よう。今日もやってるか、蟲使い」
ああ、本当に虫の居所が悪い。……『今日も』。その言葉が、奴の日々の仕事が単調であることを示している。つまり、身内以外にイゼクの正体と行動パターンを把握されているということ。
面倒、という感情がイゼクの中で強く湧き上がる。
「……こんな場所で会ったのも何かの縁だ。俺は『刃 ( やいば)』。退魔士だ。お前を殺しに来た」
そう言ってゆい────否、イゼクたち妖魔の間で『退魔士』として名を知られている男は、自身の外套の内側から刀の柄のような物を取り出した。
刀身が無い。柄と鍔があるだけの、刀の柄だけと言った代物だ。だがイゼクの嗅覚は、確かにそれが今にも魔素を放ち出さんとしている事を感じ取っていた。
「昨日、同じ妖魔を獲ってな。そいつを喰って、今日からお前専用の鋳型をいただいてきた」
イゼクは理解した。そいつはこの退魔士にとって、妖魔から搾り取った『強者の因子』を増幅・加工し、独自の武器を作り出す能力のようだ。
戦力としての単純な強さだけなら、イゼクの勝ちだ。本体の力をぶつければ負けることはないだろう。しかしその尖った牙のような鋭い刃は、疲弊し切った今のイゼクの身を一太刀ごとに着実に削り取っていく。
(蟲は奴の武器ほど実戦に耐えうる状態じゃない……ならば──)
思考と同時に動く。護身用に残していた蟲の内の数体を、イゼクのマナで即席の爆弾と化すべく編み上げる。それを応用した爆発魔術を同時に何重にも展開し、数秒後に自爆する運命にあるそれらを離れた場所に放った。
勿論、退魔士を相手に爆発魔術など犬の餌ほども効きはしない。だからこそ、退魔士が破壊対象を警戒し始める────
「甘い」
その一瞬の隙を、イゼクは見逃さなかった。飛び掛るようにして距離を詰め、萬力じみた力で首を捻じ切らんとする。
────この少女は確かに、ひと月前の戦闘で殺した退魔士の娘である。
先日の戦闘でイゼクは、彼女を庇って深手を負った退魔士にとどめを刺していた。その際に彼から発せられた言葉を思い出す。
「……虫。この虫めが……!!」
────時間にして一秒もないような、そのほんの一瞬の隙。
ゆいの口から放たれた言葉。それが、イゼクの動きを止めた。
「…………………は?」
聞き取れなかった。一瞬で状況を判断するために全神経を耳と目に集中させていた最中の雑音。そう処理しようとした。
だが……脳は、聞き取った言葉を拒否することをしなかった。
「あ、え、えっと……わ、私……魔法、使え、るん、です、けど……」
引き攣った声。命の危機に晒されながらも、ゆいはそう言った。
聞き間違いか。日本語がおかしいのか。頭が正しく回転していないだけか。
────いや。錯覚か幻聴か。そんな可能性を一蹴するように、ゆいの顔を見ると、彼女は恐怖に目を見開きながらも、必死に食い下がるような眼差しをイゼクへと向けていた。
「話、聞いてくれませんか……! 伊勢くんは、妖怪とか、そういうのは信じない?」
普通の人間ならば、この状況で何を言っているんだと思うだろう。いきなり首を締められて生命の危機に瀕している少女が、突拍子もない質問をしているのだ。
だがその言葉を聞いて、イゼクの中の苛立ちが思考の一部を占めた。妖怪────人間側の言葉で妖魔を指す。もしかしたらこの女は何か知っているのか。
マナを失い蟲も減った現在の彼にとって、こういった外部からの情報は貴重なものだった。
「……続けろ」
イゼクの手が少しだけ緩められた。苦しそうに息をするゆいが、それでもようやく喋れる状況になったとばかりに口を開く。
「うぁっ……ぁ、ありがとうございます。その、実は私……最近、学校で会った子に話しかけたら、すごく不機嫌になられちゃって……それで、どうしてなのか分からなくて悩んでたんです」
しょんぼりと言うゆい。イゼクはポーカーフェイスのまま、脳内で先日の記憶を探る。
思い当たるのは、先週の金曜日にイゼクの知り合いの女子生徒が話しかけられたことだ。確か放課後、友達が来るまでの間、たむろしていたように思う。だからといって何か特別なことはなかったと記憶している。イゼクの知る限り、あの女は無害なはずだ。
それを聞くゆいは、うんうんと頷く。
「やっぱり……。あの子、前から何か変だったんだ。ずっと同じ場所で立ち尽くして、こっちを見ては笑ってた、んだと思う」
「……お前、知っているのか。何か知っているなら吐き出せ」
「え、えっと……あの子、ずっと周りの人にぶつかっていくんだよね。それで誰も気にしないから、ぶつかった人も、多分……あの子じゃないって思うんだ……」
自信なさげに、記憶を掘り返しながら話すゆい。
先ほどまで抱えていた苛立ちはすっかり鳴りを潜め、イゼクは真剣な表情で、得難い情報をもたらす少女の話に耳を傾けていた。
人間の記憶というものは曖昧で、自分にとって都合が悪いことや興味のないことなどは往々にして忘れるものである。群れからはみ出た個を認識しないのは、人間の防衛本能が働くのだとイゼクは考えていた。だが本人が認識していなくても何かしらの違和感を覚えているのか、それとも……。
「……本当にアレだけの大きさがあると、揺れ方にも破壊力があるもんなんだな」
思考の最中、視線は無意識の内にゆいの胸元を捉えていた。言葉が口から溢れ出ていた。出会った瞬間から視界の端でチラついていたソレに対する素直な感想である。何しろイゼクは、森の外れに落ちていた死骸から何体分かのマナを回収し、優雅に食事を楽しんで
“干吧。”
收到伊泽克的指示后,虫子从充当嘴的器官中伸出一根比自身身体还要细的管子。那根管子插入唯胸口突起……缝隙间的乳管中。
“嗯呜……♡”
唯的声音中,混入了一种与之前明显不同的音色。虫子通过口中的管子喷洒着兼具麻醉和润滑两种性质的液体,一点一点地撑开乳管。就像用手指撑开墙壁上的洞一样,一点一点地。
等到她察觉时,唯的乳管已经被扩张到足以吞下水蛭般的虫子。虫子扭动面部般的部位确认后,经由乳管缓缓侵入了唯的乳房内部。
“嗯……呼……”
唯因隐约的异物感而发出细微的声响。但虫并不在意,伊泽库召唤出的另一只虫潜入唯的衣服,对另一侧乳房执行了相同的步骤。几分钟后,仿佛又有异物钻入般,她的肩膀轻轻一颤。
伊泽库呼出一口气,粗暴地从她耳边拔出触手。
“嗯啊……”
“在此处暂且就这样吧。正式改造比想象中更费工夫……大约四十小时吧。”
触手尖端附着着不知名的液体,缩回袖口。在这期间,唯仿佛才想起自己还活着似地喘着粗气。……若是仔细观察的人,或许会注意到那呼吸中隐隐带着热气。
“剩下的去你的住处进行。你在这前方公寓楼里一个人住的事情,我在摆弄你大脑时已经一起看过了。快走。”
伊泽库背过身迈开步子。他的视线并没有看向唯。猎物说不定会逃走这种可能性,伊泽库完全没有考虑过。
粗重的呼吸不知不觉间平息了。唯啪地眨了一下眼,身体略显僵硬地摇晃着,慢慢站起身来。
她没有走向公园另一个出口────而是小跑着追向伊泽库身后。
她的眼眸,如同融化中的冰淇淋一般,变成了软塌塌的椭圆形。
“……好—的♡ 一起走吧♡”
她用比最初甜腻得多的、仿佛撒满了砂糖般的声音说道,并将自己的手臂缠上伊泽库的手臂。圆润的隆起被“噗啾”一声压在了伊泽库的胳膊上。
伊泽库只是瞥了一眼,脚步却没有放慢。唯也紧贴着他一同走着……两人的身影没有被退魔士察觉,消失在了夜色之中。
────有一种虫,叫作翡翠蜚蠊蜂。
正如其名,是一种翡翠绿色的美丽蜂类。它属于所谓寄生蜂的一种,而这种蜂竟然寄生在蟑螂身上成长。
不过,体长仅有五厘米左右的它们,要抓住蟑螂或搬运蟑螂都相当困难。于是,它们采取的方法是:第一刺注入麻醉,使蟑螂动作迟缓;第二刺将毒液注入蟑螂头部掌管逃跑反应的神经细胞。结果,当第一刺的麻醉效果消退时,就制成了一只身体能动、却无法逃走的蟑螂。
就这样,蟑螂在脑部致命部分受损的状态下,被蜂牵着手带进巢穴中。
始终以为自己是在凭自身意志行动……。
距那个夜晚过了数日之后。
在这所偏差值尚可、只有老实学生就读的学校,陆理 ( 陆理)高中,那天的早晨难得地喧闹。
原因很简单。
“哦……早上好,结衣……”
“啊,早上好,井上同学!”
“那个……你、你看上去比我想象的有精神?听说你昨天和前天发烧了……”
“啊哈哈……抱歉让你担心了。不过没关系!从今天起我可以正常上学了!”
“是吗,那就好……。那、那个,结衣……”
“怎么了?”
“那个……你旁边的是……?”
“? 不是同班的伊势同学吗。伊势同学也差不多时间没来上学,你忘了吗?”
“…………”
“不,我不是那个意思……你、你为什么和那个人一起上学?而且还是那样挽着手……”
齐藤结衣。
以楚楚可怜又毫无矫揉造作的性格,以及巨乳为首的好身材吸引男生们的目光,私下里甚至还有类似粉丝俱乐部的少女。
与此相对,伊势国久在班上几乎不怎么说话,经常请假,体育和学习也都只是普普通通地完成,是个存在感薄弱的人。
除了同学以外没有任何交集的两人,居然挽着手臂(而且,看上去还是结衣单方面挽着的)走进了教室。引起不小的骚动也是理所当然的吧。因为结衣和谁在交往之类的传闻,到现在为止还没有出现过。
因为挽着手臂,结衣的巨乳几乎是被用力压扁在伊势的手臂上,甚至已经压到变形了。看到这幅光景,男生们似乎相当动摇。
伊势────伪装了身份的伊泽克────看到这些,不耐烦地吐了口气,粗暴地将缠上来的结衣的手解开。
“啊……”
“……待会儿过来。”
“好、好的♡”
手被松开的一瞬间,结衣露出了些许难过的表情,但紧接着就用甜腻的声音回应。那是教室里任何人都没听过的声音。
看到伊势走向自己的座位后,井上小心翼翼地询问结衣。
“呐、呐,结衣……你和伊势发生了什么吗?”
“发生了什么?”
“呃,那个……”
面对一脸茫然的结衣,井上反而困惑起来。她环顾四周张望了一阵子后,凑近结衣的耳边低语。
“那个,就是……你有没有被伊势……做、做了什么,之类的……。你前天和昨天请假,然后今天和他同一时间来……有关系吗?”
听了井上的担忧,结衣那双比以前更显妩媚的垂眸微微圆睁。随后她嘴角轻轻上扬。
“怎么可能啦。我只是想和伊势君在一起而已。这有什么不好吗?不是很正常的事吗?”
“唔、嗯……是、是这样吗……”
井上はそれ以上問い詰めることができなかった。ゆいの笑顔を見ていると、なんだかそれ以上何かを問い質してはいけないような、そんな気分にさせられたからだ。実のところ井上の直感はおそらく的中している。しかし彼女にそれを確かめる術はない。聞けば、答えてくれるような相手でもないだろう。
大人しい生徒しかいない学校だ。この程度の違和感はやがて大したことではないように思われ、収まっていくだろう。
だが────それは、イゼクの本当の狙いを知る者からすれば、ありえない話だった。
時は遡り、数日前。
学校の裏手にある雑木林の奥。常識で考えれば立ち入ることすら憚られるような、木々が生い茂る場所のさらに奥────そこで、イゼクは少女の看病をしていた。
うだるような熱気の夜のことである。
「────っ、う……ぅぅ……ッ」
「何度も言わせるな。傷が癒えるまでは動くな」
生気の薄い魔物。人を襲う本能はあるが、上級に属する魔物と比べて身体の頑丈さが皆無に等しい貧弱な魔物。それに取り憑かれて、身体が蠱惑的に変質している少女。
それが、ゆい。
奴隸化の魔術から防衛するための疑似免疫を、黒衣の退魔士は数年前に施していた。その影響で魔物の寄生や憑依に対しても耐性がついている。それにより蟲の寄生を身体が撥ね除けてしまった、というわけだ。だが、副作用として子宮や膣、母乳を作る乳房などに、魔素が集中的に集まる体質になってしまった。
どうやら蟲の子は体内の情報を確実に吸収したらしく、イゼクに伝えられた情報には個体の意思を保存していないことが明記されていた。彼の計画によれば宿主の意識は無関係で問題なかったため、むしろ好都合な部類ではあった。
「………」
イゼクは眠っていたゆいの体を一瞥した後、自分の腕を組んで何か思考するようなポーズを取る。
「『魔乳性 ( マムズセクレット)』か。あの蟲が成体になれば、確実に発症する……。面倒な潜伏期間だが、収穫のことを考えれば悪くない。いや、宿主を選ぶ必要もなくなるのはむしろ好都合だ」
イゼクはベッドの上でうつ伏せになり、自分の尻を突き出すような格好で眠るゆいの背中に視線を向けた。潜り込ませていた蟲を回収するためだ。その肌には言い知れぬ淫靡さが漂っている。青い下着しか身に着けていないゆいの姿は、ラバー素材のプリップリの黒いショーツがその豊満な臀部に食い込んでいて、実に卑猥なものになっていた。その周囲の肌がぷっくりと膨らみ、ショーツの布から零れ出してしまいそうだった。
「そういえば、君の個人データに残っていた悪戯っ子の記録。あれは本当に君の意志だったのか?」
「ひゃっ⁉ い、いつからそこに……!?」
触手を抜かれてからどこか心ここにあらず、といった様子だったゆいが、急に飛び上がるようにして声をあげる。イゼクが教室の窓の外────三階から中を覗き込んでいたのだ。
「そ、それは……あの……」
「……いや、気にするな。出所が脳の混乱と興奮にあることは確認している。ただそれを利用すれば効率よく落とせるかと思っただけだ」
「えっと……じゃあ、今の私たちの関係って……」
「お前が俺に依存するよう仕向けているんだ。わかったら大人しくしろ」
「はぁい♡」
途方もない威力を持つであろう情報が、二人の間で軽くやりとりされる。それに気付いたのは、相変わらず耳の尖った、教室の中でいつもぼんやりとしている退魔士だけだった。
イゼク────伊勢国久────はこの数日で、学校を休んでまで色々な準備を進めていた。
一つは自らの、そしてゆいの家の転移魔法陣の設置。もう一つはその魔法陣の中心で行う、小さな儀式の準備だ。
それは言うまでもなく、ゆいがイゼクの奴隷となる日。彼女に刻まれている刻印の効果を、実効的なものへと引き上げるための儀式である。
その準備を進めるために、学校の屋上で時間を潰していた。だが、
「伊勢君……!」
放課後、自分の机で椅子に座りぼんやりと外を眺めていたイゼクの下へ、ゆいがひっきりなしに駆け込んできた。
「二人っきりになれるのは今だけですよ、早くしないと日が暮れちゃいます♡」
「…………ああ」
はしゃいだ様子のゆいは、まるで嬉しくて仕方がないとでも言いたげに足をぶらぶらさせながらイゼクの顔を見つめている。その姿は、言われなければ幼馴染の家にでも遊びに行く学生にしか見えないだろう。
嫌そうに目を細めたイゼクは先ほどまで座っていた椅子から立ち上がり、後ろ髪に隠れていたコイル状の触手を器用に伸ばして、教室の開いていた窓の外へと放つ。すると間もなくして、何処からか白い装束に身を包んだ一人の若者がゆいとイゼクの前に現れた。
「へっ、旦那。お待ちしておりました」
「ああ。あとは任せる」
そういうとイゼクは、自分が座っていた椅子にゆいを座らせる。椅子の前には座学に使うような小さな机が置かれており、その前にもう一人の魔法使い────いや、もはや蟲と呼ぶべきか────が立っていた。
学校の外で待機していたらしい亜人たちに連れられ、ゆいが昼休みにこの教室へ戻ってくる。するとイゼクは自分の机にいることはなく、この教室でゆいを待っていた。
「はい、授業中もずっと待ってたよ。こっちにおいで」
そういうと椅子に腰かけたまま、自分の膝を軽く二回叩く。ゆいがそれを見た瞬間に口元を蕩けさせながらトコトコと近付き、その膝の上にちょこんと座った。
「きゃん♡」
イゼクは彼女の首筋に顔を埋めて匂いを嗅いだ。以前嗅いだ時よりも、ほんの少しだけ汗の匂いが混じっている。味の方を後で確認してみるか────などと、彼は考えていた。
「……で?」
「ふぇ?」
「昼に新しくサンプルを試す。放課後に時間を空けろ」
「はぁい♡ 楽しみにしてまぁす♡」
「ついでに、お前のその乳首────ラバーに変えてやる。改造だから明日からは学校には来られなくなるぞ」
「ぁ……♡ いっぱい気持ちよくしてくれるってこと?♡」
ぐりゅ、と先端を押し当てるような視線をゆいが返す。ゆいの両乳首を貫通するように乳環────ピアス────が付けられている。どうやら既に今日のどこかの時点でイゼクは彼女に手を加えていたらしい。
「ああ。学校で他の男に気軽に触らせる趣味はないんでね。しばらくは家でゆっくりしていろ」
「嬉しい♡ じゃあ今日、学校終わったらすぐおうち帰ろ……ね?」
イゼクの腕に抱き着き、上目遣いで見つめる。それに教室の連中から何やら生暖かい視線が注がれるが、イゼクは気にする様子もなく、ゆいの頭を雑に撫でた。
「好きにしろ」
「へへ♡」
教師が来るまで、二人の間では談笑などは行われなかった。イゼクは窓の外を退屈そうに眺めているばかりで、ゆいもそんなイゼクの様子を幸せそうに眺めていた。その光景は井上から見ればまるで、一方的に好き合っている気持ち悪いカップル……いや、崇拝者が偶像を拝むかのような光景にも思えた。
────何かがおかしい。井上はそう直感していた。
ゆいの突然の性格の変化、そして何よりそこに居る伊勢という人物の存在そのものが、前々からずっと不可解でならなかった。
あまり目立たない生徒ではあった。だが三年間同じクラスであり、委員会で一緒になったり、クラスメイトの男子にいじめられていたりするのを見かけたこともある。思い返すと確かに休みがちではあった。
だが、なにかおかしい。輪郭が曖昧なのに、そこだけ妙に生々しいというか、実体感を伴っているというか────。
その日の夜。下校しようとした井上は、靴箱へと走ってきたゆいとバッタリ遭遇した。
「あっ、井上さん。これから帰り?」
「う、うん。ゆいも今から?」
ゆいの服装は、登校してきたときと少し変わっている。髪を下ろしていて、少し雰囲気が違う。
「ううん、私はこれから用事があるの。井上さん、これ良かったら使って」
ゆいが差し出したのは、何かの割引券だった。よく見るとそれは、私の好きなパン屋のものだ。
「え、これって……。いいの?」
「うん。ついさっきもらったんだけど、私使わないし、井上さんが喜ぶかなって」
「そ、そんな……。ありがとう……!」
井上は遠慮しつつもそれを受け取る。ゆいの見送りを受け、少し照れくさそうに足を早める。
そんな井上の背中を見送りながら、ゆいは呟く。
「…………さて」
声に、湿り気が混ざっていた。今の口調も、笑顔も、すべて嘘。そんな簡単な嘘に、井上は気付けていなかった。
「次の標的は……」
場所が変わって、昼休み。
「ぁ……あ、あの、伊勢君、ちょっと良いかな? えっと、お昼……」
「……来い」
ゆいが話しかけた瞬間、伊勢は立ち上がって廊下へ出る。ゆいは小走りでそれに続いた。ちょうど階段を下りた先にある人気のない踊り場。そこで伊勢は足を止める。
「なんで教室で話さないの?」
「お前、バレてないと思ってんのか?」
珍しく喋っている伊勢を見て、彼の目に浮かんでいるのは苛立ちの色────そして先ほどゆいに口を利いていた井上への不信感の色だ。
「バレて……えっ、なんのこと?」
「朝、お前は井上となんて話をしていた?」
「え? ……あっ」
何でもないような顔で聞く伊勢。だがゆいは我に返ったように、その顔を青くする。
「あ、あの、これは……その、ちょっと心配してくれてただけで……」
「人と話すなとは言わない。だが、余計なことを喋るなよ。もし俺が……イゼクが何者か喋るようなことがあれば、改造は最初からやり直しだ。脳を弄る箇所が増えるだけだと思え。お前の両親も知らないような場所でな」
伊勢の口から出た言葉に、周りにいた生徒たちがチラリとこちらを見る。その表情に不気味さを感じ取ったゆいは────それでも、頬を桜色に染めている。
「ふぅん……。イゼクはわたしのことを心配してくれてるの? それとも、わたしに独占して欲しいの?」
ゆいは首を傾げてそんな質問をする。イゼクは口元を歪め、心底嫌そうな声を漏らしながら手を離した。
「……虫の居所が悪い。触手を出して大人しくさせようか」
「あっ……そういうのは、二人きりのときに、お願いします♡」
「…………まあ、一匹だけ中に入れておいたし、深追いはしないでおくか。逃げられたら台無しだからな」
イゼクは小さくそう呟いて、教室の自分の机へと歩いていった。
その日の放課後。人気のない廊下を、ゆいは実に幸せそうな表情でイゼクの後ろを歩いていた。
「ねえねえイゼク君。今日はどこに行くの? それとも、いつもみたいに私をいじめてくれるの?」
「今日は違う。お前の改造の残りを済ませる」
「残り? まだなにかあるの? もう充分に氣持ちよくなれるのに……」
「お前の脳はまだ未熟だ。もっと良い雌にしてやるためには、精神面から作り変えなければならない。今のままでは、もし誰かに助けを求めようものなら本心に引きずられてしまう」
「んぅ……確かにそうかも……♡ えへへ♡」
ゆいの体はすでに一週間ほど前から発情期……人間には存在しない、蟲のメスが持つ生理的欲求を流し込まれ、身体が熱を持つとともにほぼ常時愛液を分泌するようになっていた。だがまだ、精神の方までは改造し切れていない。
何かに疑問を感じることもなく、ゆいは今日も学校に来て────授業もそこそこに上の空、唯一の興味は放課後にイゼクと過ごすことだけ。保健室登校も三日目になると、むしろ校内に居場所ができて喜ばしいとすら感じている。
昼休み。購買でパンを買うため、彼女は伊勢君の机の前へと向かっていた。
「伊勢君、一緒にお昼食べない?」
ゆいは休み時間になると、伊勢の机までやってきて微笑む。昼休みになり教室内にいる生徒数が半分以下になっているとはいえ、教室にはまだ多くの生徒がいた。聞こえるか聞こえないか、という小さな声だが、周囲の視線が一気に集中した。
伊勢はその視線に顔を上げることもなく、やや不機嫌そうな表情でゆいを見た。
「……俺はいい。お前が行けば」
「あっ、じゃあ俺、外で食べるわ。教室にいたら邪魔しそうだし」
これまた珍しい。何せこれはほぼ無視に近い態度だ。
……しかし、ゆいが機嫌を損ねる様子はない。それどころか照れたように、にやけながらぽつりと言った。
「えへへ……つれないんだから、もう」
その反応は、誰がどう見てもおかしい。傍から見れば一方的に近づいているようで、しかも断られても嬉しそうにしている。決して、嫌がってはいない。
「あ、あのさ、ゆいちゃん……やっぱりその人と一緒にいるのやめた方がいいと思うよ?なんかおかしいもん……。私も聞いたんだけど、伊勢君って前までほとんど学校来てなかったらしいし……」
「いいの。私が一緒にいたいの」
「…………っ」
イゼクは何食わぬ顔で会話を聞きながら、携帯を取り出す。この場にいない相手にメッセージを送るようにして、何かを打っていた。
少ししてから顔を上げ、そっけない口調で言う。
「……行くぞ」
「あっ、はぁい♡」
「ご、ごめんね井上さん。じゃあまた後で!」
残された井上は、二人が去っていく後ろ姿を呆然と見つめることしかできなかった。
────なんか、変。
────ゆいちゃん、前と違う……。
教室を出てすぐの場所で、ゆいは伊勢に抱きつくようにして腕を組んだ。イゼクはそれを引きはがそうともせず、むしろ当然だと言わんばかりに廊下を進んでいく。
二人の姿を見た他の生徒たちも、井上と同様に困惑した顔をしていた。……教室の中では、何人かの男子生徒が悲鳴に近い声を上げていたが、イゼクは気にしない。どうせ名前すら覚えていない。
「伊勢君の家、どこなの?」
「……マンションの一室だ。歩いて十分ほどで着く」
「はぁい♡」
放課後になるまで待ちきれなかった、とばかりにゆいはぴったりと伊勢の腕へ自分の腕を絡める。それから廊下に響く声で、
「そういえば、今日の放課後から一緒に帰ってもいい?」
教室全体が少しざわついた。二人の関係性は、もう同級生の好奇の目から逃れられない。
クラスの一角から、男子生徒のひそひそ話が聞こえてくる。
「あれ、付き合ってるの?」
「伊勢があの斎藤と?ありえねえだろ」
「でも見ろよあれ。あの伊勢の奴が全然動じねぇし、斎藤も満更でもなさそうだ」
「ふ、ふふ……。私たちに釣り合わないことするから……」
「んあっ……♡」
ひそひそ話に混じって、ゆいが怪しい声を漏らす。
「…………」
「今の、気のせいだよな……?」
「ああ……そうだな……」
二人の男子生徒は困惑しながらも、朝のホームルームの準備を始めた。ゆいは自分の席に座った後もずっと伊勢の方を向いて、とろけそうな笑顔を浮かべていた。
─── 一限目、始業五分後。
「ちっ……まどろっこしいな。さっさと終わらせちまおう」
教師が黒板の方を向いたタイミングを見計らって、伊勢はこっそりと小さな袋を取り出した。中からはキラキラと光る何かの結晶。砂糖より細かく、塩よりもサラサラとしたそれは、藍色の光を放っていた。
隣の席のゆいがその光に気付いて、目を輝かせる。いや、目を輝かせた────という表現は適当ではない。彼女の瞳はその青い光に反射して、瞳の中に青い光が灯っている……ように見えた。
伊勢は結晶の一粒────三ミリ程度のそれを────人差し指と親指で摘まみ、講義に集中しているふりをしながら前を向いたまま、結晶を自分の背中側へと回す。ゆいがそれをこっそりと受け取る。
受け取ったのはいいが、熱を発する指輪を嵌めている手で受け取ったせいか、結晶はゆいの手に着いた瞬間、触れた部分から溶けて消えてしまった。
「…………」
ゆいの指先から小さなモヤのようなものが立ち上る。クラスの連中はまだ朝の準備をしていて、それを見た者は誰もいない。ゆいは少しだけ眉をひそめたものの、口元はだらしなく緩んでいた。
「(……これであなたもお仕置きだね、伊勢君)」
目の焦点が合っていない。バチと獲物の関係────イゼクと操られた人間の関係は、時間が経つほどに強くなっていく。
数日後。
時刻は深夜、時計は午前二時を示していた。ゆいの部屋、そのランプが照らす暗がりの中、彼女はイゼクの腕に自身の柔らかい胸をぐっと押し付けていた。
その姿は真っ黒なタイツと上はインナーだけという格好で、けれどそういった意味での艶めかしさは、むしろ服装から滲み出る絶妙な肌色の面積によって強調されていた。インナーからは黒いレースが覗き、彼女の豊満な胸の谷間が目に飛び込んでくる。肌と服の狭間からは、呼吸に合わせて形を変える柔らかそうなそれがちらりと見える。
「ねえ、イゼクさぁん……そろそろゴホウビを頂戴? もう限界なの♡」
ゆいの締め付けがきつくなった。朝の時とは違い、誰もいない場所だからか、ただ甘えるだけでなくねだるように声を出す。
イゼクは聞こえないふりを続けているが、そんなことお構いなしに彼女は腕を組んでぷにぷにと触ってくる。
アパートの一室────二人が戻ってきたその部屋は、カーテンが分厚い布のものに取り替えられている。窓には断熱シートが貼り付けられ、外の明かりが一切差し込まない空間になっていた。机の上には見覚えのある触手の入ったアタッシュケースが置かれている。
元々は普通のワンルームだっただろう室内は、ベッドや家具が可能な限り端へ移動させられて、部屋の中央が広く空けられていた。
「……仰向けに寝ろ。改造を始めるぞ」
「改造……、ぅう……。怖いよぉ……♡」
「…………」
イゼクは壁際に置いたケースを開けた。中には綿に包まれるようにして大量の蟲が入っている。それらの何匹かを手の平に乗せると、イゼクはゆいの前にそれを差し出す。横たわったゆいの顔が、自分をじっと見つめる数多の視線に晒される。
「こいつ等の寄生は誰にも悟られない。例え退魔士でもな。やつらは食い破った傷痕すらも、元通りに塞いでしまう」
言いながら、イゼクは手の平の蟲を彼女の顔へと近づけていく。
イゼクの手が止まる。ゆいが、起き上がって、また、横たわった。次の瞬間には、ゆいの体がびくびくと痙攣し始めた。
「やっ……んっ、ぁっ……♡ い、いせく……んっ……んふっ♡」
「……やはりそう反応するか。見た目は大人でも、核はあの蟲の時と変わっていないということか」
イゼクは状況を楽しむように、目を細めてその様子を眺めている。
「お、口が上手くなってるじゃないか。最初の頃は、舐められるだけで精一杯だったのに」
「んぅ、っ♡ だってぇ……うぅ♡ 國久君の、おちんちん……んっ、頭の先から、トロトロ……♡ 出てるからぁ……♡」
ゆいの視線の先、彼女が頬ずりしているそこは、制服のスラックス越しに盛り上がった熱を帯びた塊があった。
「んっ……ちゅぱ、ちゅぱ……ちゅぷっ、んぅ♡ き、氣持ちいい……♡」
もう我慢できなかった、とばかりにイゼクの股間へ顔を埋めたゆいは、分厚い布越しにその熱を確かめるように頬ずりしていた。彼女の頭の中は、既に蕩けて溶け始めていた。
「おい……」
「ひゃい♡」
足をワナワナと震わせながら、ゆいはイゼクのズボンのベルトに手をかける。
────それから、数日後。
「ゆいちゃん、今日一緒に帰らない?」
「あっ、ごめんね。今日はこれから用事があるの」
「そ、そうなんだ。また明日誘うね!」
「うん、また明日ね」
友人の誘いを断るゆい。放課後の教室に残る数人の人々。何気ない日常の光景だ。……ただしその顔が恍惚とした笑みを浮かべていないのであれば、の話だが。
ゆいは机に突っ伏すと、先ほどまで友人と話していたときの口調からは考えられないほど甘えた声で、呟くように言葉を紡いだ。
「……イゼクさまぁ♡」
放課後、人気の無い昇降口でイゼクを待つゆい。
二人が交際しているという噂が流れたりはしなかったものの、一部の男子は未だにイゼクを殺気混じりの目で見ていた。イゼクはそれを意に介した様子もなく、教室から出てきたゆいを連れて昇降口から出る。ゆいの腕がイゼクの腕に絡まり、彼女の腕が柔らかさを伝える。
大きな荷物を抱えるようにイゼクの腕に絡み付くゆいの顔は、まるでご褒美をもらえるのを待つ子犬のように綻んでいた。
放課後。イゼクに連れられて、ゆいとイゼクはともにマンションへと帰ってきていた。
「ふにゃぁあ……♡」
部屋に着き扉が閉まったのを確認したところで、ゆいはイゼクに抱き着く。イゼクは荷物を玄関に置いて、促されるままにリビングのソファに腰を下ろした。
「えへへ……ちゅ……ちゅぅ……♡」
ゆいはイゼクの腕に自らのそれを絡め、唇を押し付けてくる。イゼクはその顔を手で押しのけた。しかし何度押しのけても、ゆいはそれを気にする様子もなく何度も何度も唇を押し付けてくる。まるで犬じゃありませんか、といった具合に。
「んぅ、ちゅ……ちゅぅ♡……ん、れろ……」
「…………いい加減にしろ」
イゼクは無造作に伸ばした手で、ゆいの両頬を掴んだ。手を離すと同時に、ゆいはべちゃりと床に崩れ落ちる。だらんと力の抜けた体に、地面と衝突した痛みはあれど、彼女は快楽に溶かされた顔をそのままに、艶めかしく体をくねらせるだけだった。
「うぅ……ひどいですぅ……」
「まともに立つことすらできなくなったか。改造のし甲斐がある」
イゼクの部屋の一室で、ゆいはぐったりとした様子で床に転がっている。部屋の四隅には高そうな機械や、ずらりと並んだ本棚。
胸の上部の鎖骨に近い場所には、イゼクが埋め込んだ革新的な生物、正確には生物と機械の融合体────所謂、生体機械の一種であるそれは、乳首の裏側に着脱可能な装置。取り付けてから数時間ほどで、彼女の神経と接続を完了していた。
見た目は柔らかく無害そうなシリコン────いや、これはシリコンでもラバーでもない。イゼクが自らの触手から生成した、とある特殊な性質を持った半生物の一種だ。それが目立たないように包み込むようにしてゆいの大きな胸を覆い、少し動くたびに彼女の息をかすかに乱れさせる。
そうしてイゼクは、汝 ( なんじ)の感じるままに動けとばかりに促して、二週間もの時間をたっぷりとかけて、ゆいを……獲物を時間を掛けてじっくりと嗜んでいった。
週が明けた月曜日の朝。
ゆいの姿は、その教室にはなかった。『动手吧。』
收到伊泽克的指示后,蟲从充当嘴的器官中伸出一根比自身身体更细的管子。将它插入唯的胸部突起……插入那缝隙间的乳管中。
「嗯唔……♡」
唯的声音中,混入了与之前明显不同的音色。蟲通过口中的管子喷洒着兼具麻醉和润滑两种性质的液体,一点一点地撑开乳管。就像用手指撑开墙壁上的孔洞一样,一点一点地。
等到回过神来,唯的乳管已经被扩张到
在这世上最爱的雄性,正揉弄着自己丰满的乳房,让自己感到舒服。
在现在的唯看来,事实就是这样。
「嗯……嗯呼……♡」
「喂,你这乳房想让我怎么揉? 今天我心情不错。一点小小的愿望倒是可以听听」
「啊♡ 不、不行……马上,授、乳……嗯♡ 就要开始了……♡」
「没听到吗? 我问你想让我怎么揉」
「呜゛♡ 好……好ぉぉ……♡ 那个……嗯……那个……从根部,拧着……♡ 不、不要……伊泽库君喜欢怎么揉,就怎么揉嘛♡ 只要是伊泽库君揉的话,什么样都可以……♡」
「什么东西。浪费我施舍的机会,你这人类胆子倒是不小」
自己给予的施舍机会被践踏了。妖魔的眼中映出这样的景象,他暂且松开指尖,重新用力。
「啊……」
如同被锁定了一般的感觉。雌性的本能使她垂涎,无意识地摆出挺胸的姿势。
下一刻,伊泽库的手如同海星吸附般再次抓住了唯的胸部。
「啊啊♡ 哈、哦哦……哦っ♡ 嗯唔、好舒……服……♡」
粗糙的手掌轻易地推挤开乳肉,乳肉也将手掌的背面松松地包裹住。
手指像虫子一般在隆起的乳房上蠕动,指腹不时掠过尖端。每一次,如电击般的快感都贯穿唯的身体。增设的快感神经将刺激成倍放大,传导至手臂、腰肢乃至双腿。
超出原本设想量的快感轻而易举地将大脑回路烧毁。视野明灭闪烁,唯无声地仰起背脊,露出白皙的脖颈。
上课铃声,早已无法进入她的意识。
「啊、啊ぁ……不、不行……不行了ぇ……♡ 再、再被碰下去、要去了……♡」
「去。赶紧」
「んぎっ……♡ 去了……要去、要、去……去ぅぐぅぅぅぅぅ♡♡」
眼眶湿润,浮现出心形的色泽。
不曾破瓜,也不曾自渎过的斋藤唯,在妖魔的手中尝到了绝顶的滋味。
与此同时,唯的乳房内部发生了变化。
改造过的乳腺感应到传达至大脑、并由大脑发出的快感,开始渗出液体。那是母乳。
本应是唯有将爱奉献给某人、并得到某人的爱才能萌动的器官,却被强行唤醒,她的乳房以双倍的速度开始分泌母乳。
而受那液体吸引,乳房内部有什么东西在蠢动。
那天夜里,从唯的左右乳头侵入乳房内部的蟲,在那里产下了裹着凝胶状黏液的卵。
产卵的蟲随后死亡,如同溶解一般化为卵的营养,加之伊泽克之手的推动,卵的孵化被急剧促进。
如此诞生的数十只蟲,如今正以唯乳腺中渗出的母乳为食,茁壮成长。
蟲们舔舐吸吮母乳,每次都会顺带刺激已经化为性感带的乳腺和乳管,促使宿主更加兴奋。就连乳汁被吸走的感觉,唯的大脑也会将其转换为快感。
兴奋就会分泌母乳,分泌母乳就会兴奋不止。结果,现在的唯只需一点刺激就能轻易达到高潮,一旦高潮就会连锁性地一次又一次不断高潮,无法停下,持续产出母乳——她已经变成了对妖魔和蟲们而言过于便利的牛奶服务器。
「唔噢……哈啊♡ 哈啊♡ 在喝……♡ 我体内的蟲子们,啊,在喝我的奶……♡」
「是吗」
「喝、喝多一点哦……♡ 要变得更、啊゛♡ 停下、现在胸又被揉,啊゛♡」
蟲子们的事,ゆい自然也用扭曲的形式认知着。对她来说,这些蟲子毫无疑问是与伊泽库的爱情结晶。它们不是人类的形态、不在肚子里而是在胸中,这一切她都已经能够毫无违和感地处理。
乳腺被蟲子爬来爬去,对普通人来说会是难以想象的厌恶感吧,但正如之前反复提到的,这些都会被转化为快感。不仅如此,ゆい还被改造得对这些蟲子抱有近乎母性的、如同『母亲』一般的无条件爱意。
……那种存在方式,已经不再是『人类』了。正是为了培育蟲子的苗床。
恐怕一旦与退魔士对峙……她不会被当作普通人,而是作为“被妖魔改造的可怜存在”来处理吧。
ゆい并不知道这些,她老早就超过了能承受的极限,在仿佛永无止境的高潮中流着欢喜的泪水。
「はぁ゛っ♡ あっ、あっ……い、ぎゅうっ……♡ イぐっ、また、イっ……♡♡ と、とめでぇっ……とめ、でっ♡」
“唔嗯♡ 啊、啊……要、去了……♡ 去了、又要……♡♡ 住、住手……住手啊♡”
无视她的恳求,伊泽克继续记录着获取的数据。对他而言这也是首次尝试。必须收集数据才行。
话虽如此,过于强烈的快感让雪绪开始乱动身体,试图哪怕稍微“泄掉”一点快感——这种动静似乎终于让他觉得烦躁了。
他正想从上方按住她,稍微探出身子时,她胸前那对晃动的乳房映入了眼帘。雪绪乳腺渗出的母乳,虽然一出就被虫们吸走,但似乎生产速度还是比虫子的吸食速度更快。虫子没能吸完的部分溢了出来,穿透厚实的上衣和胸罩,渗出了淡淡的痕迹。
伊泽克从雪绪制服的下摆强行把手伸进去,指尖滑过滚烫的肌肤。接着手指探入湿透的胸罩内侧,触碰到了柔软。
ゆいが慌てて体をよじらせたが、イゼクは上から体重を掛けて制し、細い指をさらに奥へ進めた。乳房の弾力を楽しむように揉みしだきながら、今度は親指と人差し指で乳頭の根元を挟む。
「あぁっ♡ そ、そんな……だめぇ……っ♡ 一回、頭、冷やしてぇ……っ♡」
「アディショナル・プログラム。作動させる」
「ぁ゛っ!? な、なにこれ……っ♡ あっ、あっ♡ イクっ、イグっ♡ ち、小さな、蟲がっ……♡ 乳首をっ♡♡」
イゼクが発した言葉に反応するように、ゆいの体内で何かが動き始める。乳頭から侵入した蟲たちが体内で待機するように潜んでいたのだが、今し方の指令で一斉に動き出す。
彼らが目指すのは乳腺。
母乳の生産を司る器官であり、性感帯となっているそこを這いずり回るように刺激する。
既に蟲たちが大繁殖しているのであれば新しい刺激を加えずとも簡単にイくことが出来るのだが、この蟲たちは自分たちの餌をより効率よく得るために宿主の母乳の生産効率をより高めるべく、宿主の性感を刺激する改造遺伝子を植え付けていた。
母乳の出を良くするためには、ある程度の母体の快楽と興奮が必要だと悟った蟲たちは、宿主に快楽をもたらし続けるための器官を、宿主をより良い苗床とするための器官を形成していく。鈴蘭の快楽に屈服した肉体は増設された神経によってただただ敏感に、蟲たちの都合の良いように再編成されていった。
「お゛っ♡ あ、ぁ゛……しょ、しょりょく、出るっ♡ 出ちゃう、出るぅっ♡」
ゆいの体がびくんと跳ね、胸の先から白い液体がふわっと飛び出す。母体が勝手に放ったミルクに、近くにいた蟲の一匹が跳びつくようにして吸い付いた。
次いで、殆どの蟲が乳頭から上半身を乗り出して母乳の滴りを啜り始めた。中には乳頭の縁に張り付いて雫を舐めるような動きをする奴までいる。
くすぐったいような、むずむずするような感覚。それすらも快楽に変換され、ゆいは小さくまた嬌声を漏らすのだった。
「ひぅっ♡ んっ、んぁっ……♡ 蟲さんたち、みんな、良いこ、良いこっ♡ ママのお乳、たっぷり飲んで……♡」
「……ふっ。もう赤ちゃんのお世話か。乳繰り合いにも程がある」
「にゃぁっ♡ ぅんっ、んぁ……♡ だって……赤ちゃん、だもんっ……♡ 私の赤ちゃんはイゼク君との、赤ちゃんだからぁ……いっぱい、可愛がってあげなきゃ……」
蕩けた顔で、言葉を発する。
イゼクはそれを確認すると、満足したようにそして嘲笑うように薄く笑った。
「…………まあ良い。ここからは少し実験だ。お前の蟲の性質を確かめさせろ」
「え……あっ」
実験。その言葉にゆいがビクリと反応したとしても、もう遅い。
イゼクはゆいのブラウスのボタンを上から乱暴に引きちぎった。プラスチックのボタンがぽろぽろと床に転がる。
晒された胸元には、性感体へと改造され、母乳を湛えた二つの乳房が猥雑に揺れていた。肌は薄っすらと汗ばみ、乳輪からは母乳が滲み出てブラジャーの内側をべとつかせている。
「……豊満で敏感、さらには母乳も出る。加えて蟲を宿している。苗床として完成されているな」
「んっ♡ そ、そんなこと……言わないで、恥ずかし……♡」
「褒めているんだ」
「ち、違うもん……イゼク君の、イゼク君の子供を育ててるだけ、で……♡ んぅっ、あっ♡」
おかしな認識だが、もはや訂正する気も起きない。本人が納得しているのならばそれでいい。
そうと分かれば、イゼクは早速実験の続きを始める。蟲が棲み着くようになった乳房の機能。授乳と妖気供給の研究というわけだ。
先ほどまでの指による刺激はあくまで彼女の反応を見るためのもの。これからは本格的に“搾乳”を行っていく。
「ほら、乳首、立ってきてるぞ」
「ひぅっ♡ んっ♡ こ、声を掛けられるとぉ……♡」
「感じるか。それならそのまま俺の前で……思う存分、母乳を搾り出せ」
「ひぃっ♡ で、でも……こんな、人のいない場所で、ひとりで……む、無理ぃ……」
「さっき授乳って言っただろう。もう子供はそこにいる」
とんとん、と自分の胸を叩いて見せるイゼク。その言葉に内心をキュンと疼かせながら、それでもまだ迷っているゆい。
そんな少女を見て、イゼクは小さく溜息をつくと手に魔力を集め始めた。ゆいの乳房の辺りを指さすと、桃色のリボンがぐるぐると乳房の根元を縛り上げる。
するとどうだろう。リボンに絞め上げられた乳房 ( ・)が、じわじわと上へ上へと押し上げられていく。
本来乳房は下部の方が大きいため、上へ押し上げると胸の上部がパンパンに膨張する。ブラジャーから溢れてしまいそうな乳房が、きゅぅっと一層強調され、胸の重みでブラジャーの肩紐がギシギシと音を立てていた。
自分の胸だけで自重を支えている感覚に違和感を覚えると同時に、新しい体液と快楽が押し寄せて、ゆいの頭は再びくらくらし始める。
「ひっ、あ゛……なに、これ……ちくび、すごく尖って……あっ♡ さわらないで、も……こんな、変になっちゃうから……」
「ん? まだ一回しかイッてないだろう。こちらとしてはこのままトントントンッとイッてしまっても良いんだがな」
「や、やだ……っ、恥ずかしいの、いやぁっ♡」
「なら一度顔を洗って来い。俺の言う通りに出来るか?」
「う、うん……っ♡ わ、わかった、イゼク君の言う通りにする……♡」
あっさりと承諾してしまう。ゆいはイゼクに言われるまま、席を立って教室を出て行った。
スキップでも踏み出しそうな足取りで。この様子では、先程の高ぶりを引き摺ったままの上、自分の意思で少しでも恋人に言いつけられたことを実践しようとしているようだ。
イゼクは思いのほか素直なゆいに、目論見が思いのほか上手くいっていると確信を深めた。
「さて、と。それでは虫干しと行こうか」
イゼクが椅子に座ったまま指を鳴らすと、教室の中にふわりと風が流れる。
開け放たれた窓から風が入ってきた、というには妙なタイミングだったが、妖精族の誰かがイゼクの指示で風を送ったらしい。
廊下には、カッタカタと軽い蹄の音が響く。
その音の主は、イゼクの側に寄ると恭しくひざまずいた。
イゼクはゆいの胸元からごそごそと探り、指で胸から溢れた母乳を掬い取る。それを人差し指に載せて、後ろに控えた何かに向かって差し出すように掲げた。
「さあ、機は熟した。始めようか」
イゼクが指に乗せた母乳に誘われるように、背後の影がぬっと動いた。
その影の正体は、妖魔の下僕・ウェンディゴ。
顔を舐めたいほどの飢えを溜めた獣の形をしたそれに、イゼクは何の躊躇もなく指示を下す。
「その母乳を、味わえ」
下僕が二つ返事で応じる。
さながら仔犬がミルクをねだるように、ぬめりと長い舌を伸ばしてイゼクの指に付いた母乳を舐め取る。それは美味というよりも、発情を促す媚薬として機能しているようで、子を成すための信号としてウェンディゴの脳に強く刻まれる。
そして『孕ませろ』と子を成すことを強く促す信号が、ウェンディゴの下半身の感覚へと強く力を籠らせた。
イゼクが手を引き、代わりにウェンディゴの頭をゆいの胸へと近づける。
「舐めろ。ただお前の舌が触れているだけでコイツはイく。ちょっとした暇つぶしにはなるだろう」
「……余計なことを考えなくていいと言うのなら」
「ああ」
二つ返事で、ウェンディゴは乳首に吸い付いた。
赤子が母乳を飲むようにその乳首を咥えて、頭を固定し、懸命にしゃぶりつく。
「ひぁ゛っ♡ そ、そっちも……っ♡ や、やめ、んんっ♡ イゼク君の蟲に、飲まれながら、ウェンディにも、吸われてっ……♡ と、とっても、くすぐったいの……っ♡ あ゛っ♡」
「はぁ……一人で乳を吸わせてるだけなのに乳首を勃たせているとは。ホント、よく出来た苗床だな」
「ほめ……られて、る……? 私、良い苗床なの、です……か?」
「ああ。その淫乱で無様な姿、大変素晴らしい」
「んっ♡ えへ、えへへ……♡ イゼク君に褒められたぁ……♡ ミルク、いっぱい出すから……ちゃんと、飲んでね……♡」
乳汁が滴る乳房をイゼクへと差し出し、ゆいはへにゃりととろけた笑みを浮かべた。
その顔に、イゼクは怜悧な微笑を浮かべる。
「尤も……そのミルクを飲むのは主に蟲だがな」
無遠慮にゆいの頭を引き寄せて、歪んだ愛の形を噛み締めさせる。
「私たちの、子供たちが……っ♡ いっぱい育って、くれる……っ♡」
「ああ。お前は蟲の苗床として申し分ない」
「苗床……うれしぃ……っ♡」
実際のところ、ゆいの意識は快楽でとっくにクラクラしている。だがそれでもイゼクに褒められることが何よりも嬉しい。頭の中のリスのように、褒められた報酬を脳内で噛み締め、より一層イゼクの言うことに従順になっていく。
表情は蕩けきって、桃色の頬には涙で張り付いた髪の毛がへばりついていた。
「かわいいやつ。褒めてやるから、もっと乳を寄越せ」
「うぁ……♡ はいっ……♡ イゼク君に褒められてぇ……おっぱい、張ってきちゃう……♡」
「くっ……それは良い、非常に良い」
とろとろに蕩けたゆいの頭では、褒められた=乳を渡していい、と言う認識になっていた。乳を出せばイゼクが褒めてくれる、イゼクが褒めてくれるから嬉しい、嬉しいからもっと母乳を出す。嬉しさに任せた自発的な母乳分泌でまた溢れ、イゼクの見る前で制服の胸元を母乳でじっとりと濡らしていく。
その光景にイゼクの巨根 ( ・)は怒張し、パンツの中で限界まで膨れ上がっていた。
「おい、ゆい。お前のここ、母乳で濡れて気持ち悪かろう。着替えさせてやる」
下腹部をずっしりと、理性を溶かす淫猥さでそそり立たせて。
「え……あ、は、はい……」
快楽に蕩け切った瞳を忙しなく動かし、自分を犯す機械……イゼクを見つめる。イゼクの言ったことの意味を、判断力も何もかも溶けきった頭で必死に咀嚼する。
母乳が滲み出てブラジャーやブラウスを汚してしまっているから、着替えを勧めている……という発想に行き着くのにしばらく掛かって、ようやく意味を理解した。だがそれを認識した途端に、ゆいの全身にさっきの快楽がフラッシュバックする。
「トイレとかそういう意味ではなく、俺の前で着替えろ。それとも私に手伝ってもらいたいか?」
「あぁっ♡ そ、そんなの、恥ずかしいよぉっ♡」
「お前は口で『恥ずかしい』と言うが、全身はそんなことを微塵も感じていないようだが? ほら、自分で揉んでいるときも触っていない乳首がはちきれんばかりに張っている」
その事実を指摘されると、体の内側が熱くなっていくのが分かる。
もっと見られたい、イゼク君に。……そんな想いが溢れてくる。
自らのブラウスを脱ぎ、下着をずらして大きな乳房を露出させた。びんっと跳ねるような反発を以て解放されたそれらは、ご丁寧に左右で違う方向へと弾んだ。
「……ちゃんと見てて、くださいね♡」
ゆいは乳房の下から手を添えると、揉み込むようにして上へと押し上げる。谷間を作るようにして、自らの豊満な胸をイゼクへと差し出した。
「うむ。柔らかくて形状も良い。食事の時は母乳を出すことのできる部品として、普段は性処理用の道具として十分に機能するだろう。無骨で愛らしさに欠けるが、実用性の高い良いおっぱいだ」
「っ……! ありがとう、ございます……っ♡ イゼク君にそう言ってもらえると、うれし、いっ♡」
ゆいは告白とも取れるその言葉を素直に喜んだ。元の自分ならば「胸のことを褒められても……」と苦笑いを返していただろうが、改造された今のゆいは褒められれば褒められるほど、イゼクに乳を搾られる喜びへと思考を持っていかれる。
もっと。もっとイゼク君にミルクを飲んでもらいたい。褒められたい。この胸を触ってほしい。そう思うようになっていた。
「先生。なんで斎藤さんだけ放課後も残ってるんですか?」
「お前な、その質問もう三回目だぞ。何度も言うように、あれはマラソン大会の練習だ。体力作りだよ。あと数日で本番だろう? 放課後、先生に体力作りのための特別トレーニングを課されているんだ。周りの連中も見学ついでに何かしているだろう。お前も何かやって体力つけたらどうだ?」
「はあ……。もう一週間も続いてますよ? しかもあの人いっつも、ベッドの上でぐったりしてますけど、本当に体力作りの練習なんですかね……。あの人、いつからあんなになったんですかね……」
「さあな。だがお前、あの女の様子に何か気付いたか? 教室でもあの女はよく笑うようになった」
「……まあ、前より楽しそうなのは確かですけど」
「だろう? あれで俺たちが妖魔の所為で嫌々ああなっているなら、問題だがな。……まぁ、仮にそうでも、もう誰にも止められないだろうが」
放課後。もうすぐ部活が始まる時間のことだ。
ゆいはというと教室で友人たちとじゃれ合っている。
放課後は毎日、イゼクの下を訪れて妖魔の赤ちゃんの世話に追われているが、放課前のこういう時間は性根が明るく単純なゆいのこと、友人と話せば気が紛れるようだった。
妖魔の手によって味わわされた屈辱の日々。無理やり捩じ曲げられた快楽と常識。それらの苦痛を感じる様子は微塵もなく、ゆいはいつも通りに振る舞えていた。
「ゆいちゃんってさー、なんか最近雰囲気変わった?」
「え? そ、そうかな?」
「うん。なんか……色っぽくなった? ほら、何だっけ、えっと……育乳マッサージ的なのを始めたって聞いたけど、やっぱり効果あるってこと?」
「あ、は、はいっ♡ 最近、お、おっぱいの調子がよくって……♡」
「調子って……おっぱいに調子あるんだ(笑)」
「あっ、その、言い方が、えっと……張りが、すごくよくなって……それで、えっと、気持ちよくて、き、気持ちよくて……」
「なにそれ……なんかエッロ」
「あっ、ち、違うの! そういう意味じゃ――」
三人の会話は、教室の喧騒の中でひときわよく響いていた。
放課後の教室。女子の何人かがゆいの机の周りに集まって何やら楽しそうに話している。
あの日以来、休み時間になると自然と女子の輪の中にいることが多くなった。
「なぁなぁゆい。昼休みどっか食べに行かね? せっかくの陽キャラだしさ、一緒にいる相手も充実してきたと思うんだよね」
「お、いいね。ゆいちゃんオススメのお店ある?」
「あるよ。それじゃあ放課後にでも行こうか。もしよかったら、みんなで」
……ここに来るまで、まさか自分が同級生の女の子と仲良くなれるなんて思っていなかった。自分の過去を知っている人間と、こうして自分から教室の外で関わりを持てるようにもなった。
昨日までのゆいからは考えられないような光景だ。
「あっ……」
頭の中でまたその『昨日まで』の記憶がフラッシュバックする。いじめられていた時、自分を守ってくれたイゼク君。
あの日々から今に至るまで、イゼクはずっとゆいの面倒を見てくれていた。
彼に何かをしてもらうたびに何かが満たされていく。
恋と呼ぶには、あまりにも歪んでいた。依存。承認欲求。何よりも、自分を守ってもらえるという安堵がずっとずっと心の根っこに根付いている。
けれどそれに加えて今は確かに。イゼク君に、胸を触ってもらっているという事実だけで感じてしまう。色んなものをトばしてしまっているこの身体は、心の訴えとは関係なく淫らに反応してしまう。
イゼクは教室の入口に立ったまま、小さく舌打ちをした。
周囲の目も惑わず、教室の中心へと歩いていく。
「……授業中だ」
「あっ、イゼク君。ううん、入ってきて大丈夫よ? 先生には言ってあるし。本当にエリクサー錬成の実技試験の話、乗ってくれるって話で……?」
「俺の僚魔器は俺の魔力で動く。能力に適合しないお前達に渡しても害になるだけだ」
とりあえず、これで用は終わりだと言わんばかりに手を振って踵を返す。
「ちょっと待ってよ! 先生に話をつけておいたんだよ。俺がお前の将来の可能性を見出だした、と。だから……」
「知るか。他人の可能性は俺には関係ない。どうしてもやれと強要するなら、同じ事をお前の女にやるぞ」
「わ、わかったよ。今日のところは見逃してやる。だが、いずれ必ず……」
「はいはい。その時はその時に考えてやるよ。じゃあな」
イゼクは振り返りもせずに手を振って、去っていく。
それを追いかけるようにして、ゆいも立ち上がった。
「待ってくれイゼク君。イゼク君、じゃあ、私の家に、一緒に来てくれないか? 今からみんなでミルクを飲むんだ。イゼク君の身體に良いものを用意してある」
こうして二人は連れ立って斎藤家へと帰っていくのだった。
イゼクが家に上がり込んだ後。何があったかは言うまでもないが、ゆいはトイレに立った際、あまりの快楽に足がもつれて転んでしまった。
仕方なく浴室に向かい、体に付着した粘液や母乳を落としていると、そこへイゼクがふらりとやって来る。
「ゆい。もっと、俺の精を飲むか?」
「え……? あ、あの、き、昨日も散々出して、もらって、た、ので……今日は、もう……」
「そうか。……俺の意を汲めないのならば、このまま出て行く。次にいつ会えるかは約束できんが、まあそのつもりでいろ」
「ち、違うの! 飲むっ、飲みますっ! だからイゼク君……行かないで……♡」
これもいつものことだ。一度拒否すれば二言目にはイゼクが去っていくと言う。そうなればこの幸せな時間は終わってしまう。人間ではなくなってもしまった自分を、ここまで愛してくれるのはイゼクだけなのだ。
ゆいの脳は都合よく記憶を塗り替えられている。
半ばキレかけながらも、結局ゆいがイゼクの言いなりになる。
今のゆいには、それが幼い頃からずっと続いてきた当たり前の日常だ。
イゼクに淫らに胸を揉まれ、口元から零れる蕩けた唾液を拭いながら、ふと顔を上げる。――窓の外に見える中庭の光景。
そこで目にしたのは、自分と同じ制服を着た一人の女生徒の姿だった。
遠目でも分かるほど色素の薄い髪と吸い込まれそうな紫紺の瞳。落ち着いた空気のその生徒は周りに人こそいないものの、一人で佇んでいる雰囲気が場に全くそぐわない。
「……あなたもなの?」
何かを探るようにこちらを見る彼女と視線が合い、ゆいは呟いた。
口元には、苦い笑みのようなものが浮かんでいた。
十一節 温もりはまだ此処に
私の名前は真神学園二年B組、天川透花。隠れた趣味は寺社仏閣巡り、いわゆる神仏習合マニアだ。
学校にいる間は少しでもコスパを上げるためにだいたいいつも端末を見て過ごしている。スクリーンショットを見返しては、今日の授業の内容を、本当はこの後にある神社へ行くために学ぶべきことを、無理やり畳み込んで記憶をしているところだ。
「…………はあ」
どうして私が学園を守るために毎日血反吐を吐くような想いをしながら戦っているというのに、この子達はこうも気楽なんだろうな……。
ぼんやりと窓の外を見ながらクラスの生徒たちを観察していると、担任が教壇に上がってホームルームが始まった。
「はい皆さん、連絡事項です。二週間後にこのクラスで『人狼探しゲーム』を実施します。詳しいことは後日配布されるプリントに書いてありますが、要するにクラスの半数が人狼役になって、もう半数が退魔士の役になって逃げる人狼を捕まえるゲームです」
学園の授業の一環として『退魔士実践演習』というものが月に一度ほど開催される。
内容は簡単だ。クラスメートの半数が妖魔……もしくは妖魔に寄生された人間という設定の『人狼役』に、もう半数がそれを追う退魔士役になる。
人狼役は教室の外に逃げ出し、制限時間内に捕まらなければ勝ち。退魔士役は校内に潜む人狼を制限時間内に発見して倒すことができれば勝ち、というもの。
妖魔に改造されてしまった退魔士が担当するクラスの場合、こういった実戦形式の訓練を取り入れているらしい。勿論退魔士といっても、放課後などに別枠で行われる補習などで徹底的に戦闘訓練を積まれている。
退魔士に改造されたという点に関してだが、実はイゼクの存在についても学園の関係者は認識している。
だが、倒すべき『妖魔』であるという認識は一切ない。なぜならイゼクは学園の学生でもあり、そして何よりこの学園の出資者だからだ。
ある大手企業グループの最高権力者の息子の一人。それこそがイゼクの素性であり、学園にイゼクを止められる者などいない。夜に出入りしているのは監視をしているだけで、実態は何も明らかになっておらず、化けの皮が露見することも無い。
仮に発覚したとしても、退魔士や政府などが簡単に手出しできない組織がスポンサーに付いている。
イゼクが普通に通学するだけでその目的を果たせる、いわば安全地帯。そこに、こんなにも都合の良い実験体が転がり込んできた。だからこそ、彼も労力を惜しまない。
改良のためのデータを取ることを優先しつつ、不必要な苦痛を与えない程度に触手の拡張訓練も兼ねて、この女を死なせず玩弄する。
そして、まだ見ぬ新しい妖魔の生態を確認しながら、今回は上々の収穫だと言えるかもしれない。
「お゛お゛っ♡ あ゛っ♡ こちょ……ぉ゛♡ あ゛ぁ゛っ、指、さっきより……っ♡ ふあぁぁっ♡」
「そうか。なら俺の指に合わせろ。コツを掴めば、もっと気持ちよくしてやれる」
蟲に、指に、イゼクの匂い。全てに興奮させられて、そして別の快楽にも気付いてしまう。
気付いた。自分の中、奥の方からとろとろと蜜があふれ出している。
胸を触られているだけなのに。さっきは直接秘所を触られてイかされたが、それ以降どうも乳首からの刺激が子宮と直結しているらしい。母乳を吸い出される感覚と同時に、子宮の奥が疼いて仕方がない。
「ねぇ……イゼク君……♡」
「なんだ」
「……きもちいい、こと、しよ……?」
小動物のように見上げて、ねだる。
イゼクが手を止めてゆいの顔を見ると、ゆいの目がとろりと溶けて、桃色の吐息を漏らしていた。
「今日の俺は機嫌が良い。ホモサピエンスであるお前に課した情事を全て行った暁には、そうだな……残りの時間をたっぷり使って悦ばせてやってもいいぞ」
「ほんと……!? ほんとにいいの!?」
「ああ。ただし、俺を
某个普通女高中生被改造成虫使妖魔的苗床的故事 ~寄生改造篇~
とある女子高生が蟲使いの妖魔の苗床に改造される話 ~寄生改造編~
一个只是胸部较大的平凡女高中生,被妖魔玩弄身体和大脑,改造成苗床的故事。
姑且算是作为第一话写出来的感觉,如果反响还不错的话,我隐约考虑要不要做成系列。
https://wavebox.me/wave/bo33ffs6oqawggyn/
因为这是我第一次写R18小说,所以非常希望能收到大家的感想和对表现手法的评价,作为参考我设置了Wavebox。如果有不方便在评论区写感想的人,能从这边发给我就太好了。
封面和插画是用AI画的。其实是用AI随便生成插图玩的时候,出来的画很戳我,想加上故事,于是就开始写了。